寺門静軒

寺門静軒の生涯

寺門静軒（てらかど せいけん）は1796年に生まれた幕末の儒学者であり、通称を弥五左衛門、諱を良、字を子温といいます。また、克己や蓮湖などの号も持っていました。彼は水戸藩の御家人である寺門勝春の子として生を受けました。生母は河合氏であり、13歳の時に父を失った彼は、庶子であったために家業を継ぐことが許されず、苦境に立たされました。父の死後は放蕩無頼の生活を送り、19歳のときに腹違いの兄が水戸家から禄を離れたため、父から受け継いだ別宅を売却し、一時的な生活の糧にしなければなりませんでした。

彼の人生の転機は、文政13年（1830年）のことです。この年、徳川斉昭が藩主となり藩政を一新する中で、静軒は新たな人材登用の機会を求めて藩に上書を提出しましたが、反応は無視されました。更に藩邸前での請願も試みるものの、侍としての職を得ることはできませんでした。

その後の静軒は、駒込で私塾を開所しています。天保2年（1831年）からは、江戸の風俗を描写した『江戸繁昌記』の執筆を開始します。この著作は、江戸の多様な文化や社会を詳細に描写したもので、非常に多くの読者に支持されました。しかし、その名声は長く持続することはありませんでした。天保6年（1835年）3月、静軒は著作に対して出版差留の処分を受けます。これは青表紙本検閲の責任者である林述斎の推薦を受けた江戸南町奉行の命によるもので、静軒は結果として『江戸繁昌記』の初及び二篇について「敗俗の書」として扱われます。しかし、静軒はこの処分には屈せず、第三篇以降の刊行を続行しました。

さらに、天保13年（1842年）には、江戸南町奉行の鳥居甲斐守に召喚され、彼の著作が「聖賢の道を穢すもの」と判断され、奉公禁止の処分を受けました。この時、鳥居は静軒に対し、「孔孟の道がどのようにこの書に関係しているのか説明せよ」と追求しますが、その明確な答えを見出せなかった静軒は罪を認めざるを得ませんでした。この出来事は、木村芥舟の随筆にもしっかりと記録されています。

静軒はその後、「無用之人」と自称し、越後国や北関東を放浪します。最終的に武蔵国の妻沼、現在の埼玉県熊谷市にて再び私塾を開き、そこで晩年を過ごしました。彼の生涯は73年に渡り、数多くの著作を残しました。主なものには『静軒一家言』『静軒慢筆』『新潟繁盛記』などがあります。

静軒には多くの門人がいたことでも知られています。その中には、小浜大海、松本万年、松本文斎、青木錦村、岡田行山らが名を連ねています。彼らの活動は静軒の教えを受け継ぎ、後の時代にまで影響を及ぼしました。

主要な刊本

• - 『江戸繁昌記』佐藤進一訳、春陽堂、1929年
• - 『江戸繁昌記 校訂』北沢二郎校、雄山閣文庫、1939年
• - 『江戸繁昌記』全3巻、朝倉治彦・安藤菊二校注、平凡社・東洋文庫、1974-76年
• - 『江戸繁昌記』竹谷長二郎訳、教育社新書、1980年
• - 『太平志』太平書屋、1980年
• - 『江頭百詠』太平書屋、1984年
• - 『江戸繁昌記』日野龍夫校注、岩波書店（新日本古典文学大系100）1989年
• - 『新潟冨史 新潟繁昌記』新稲法子 訓読解説、太平書屋、2004年
• - 「静軒痴談」『日本随筆大成』第2期第20巻、吉川弘文館、1995年

以上が寺門静軒の生涯と彼の業績についてです。彼の作品は、江戸時代の文化や社会を理解する上で貴重な資料とされています。静軒の思想や教えは、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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