尋ね人の時間

尋ね人の時間

『尋ね人の時間』は、昭和中期にNHKラジオで放送された番組の通称で、正式名称は『尋ね人』です。番組開始時に「『尋ね人』の時間です」とアナウンスされたことから、この通称が広く使われるようになりました。この番組は、戦後の混乱で消息が分からなくなった人々を探すために、リスナーからの手紙を基に情報を放送しました。同時期には、『復員だより』や『引揚者の時間』といった関連番組も放送されていました。

概要

『復員だより』と『引揚者の時間』は、外地からの引き揚げ船の入港予定や乗船名簿、外地残留同胞の状況などを伝えていました。『尋ね人』では、リスナーから寄せられた手紙をアナウンサーが朗読し、消息を知る人や本人からの連絡を待つという形式でした。これらの番組は、昭和20年代には別々の番組として放送されていましたが、1957年（昭和32年）に『引揚者の時間』が終了し、『尋ね人』に統合されました。

NHKの調査によると、1949年（昭和24年）3月までの3年間で、19,515件の依頼が放送され、そのうち約1/3にあたる6,797件で尋ね人が見つかったとされています。この数字は、当時の人々の情報に対する切実なニーズと、番組の社会的な影響力の大きさを物語っています。

内容

番組では、依頼人の手紙の内容を簡潔にまとめ、アナウンサーが淡々と読み上げました。例えば、以下のような内容が放送されました。

「昭和20年春、○○部隊に所属の××さんの消息をご存じの方は、日本放送協会の『尋ね人』の係へご連絡下さい。」
「シベリア抑留中に○○収容所で一緒だった○山○夫と名乗った方をご存じの方は、日本放送協会の『尋ね人』の係へご連絡下さい。」
「旧満洲帝國竜江省チチハル市の○○通りで鍛冶屋をされ、「△△おじさん」と呼ばれていた方。上の名前（あるいは、苗字）は判りません。」
「ラバウル航空隊に昭和19年3月まで居たと伝え聞く○○さんを、××県の△△さんがお探しです。」
「昭和○○年○月に舞鶴港に入港した引揚船「雲仙丸」で「△△県の出身」とおっしゃり、お世話になった丸顔の○○さん。」

これらの情報を通じて、復員兵、引揚者、シベリア抑留者、戦中時に知り合った兵隊仲間など、様々な人々が探されました。依頼者の多くは、同じような境遇の人々や、戦時・戦後の混乱で離れ離れになった人々でした。中には、復員したものの故郷に戻らない傷痍軍人や、残留日本兵と思われる人々を探す内容もありました。また、GHQの日系二世駐留軍人からの依頼もありましたが、アメリカ国籍者からの依頼は採用されませんでした。

放送時期・時間

復員だより: 1946年（昭和21年）1月から1947年（昭和22年）2月まで。
尋ね人: 1946年（昭和21年）7月1日から1962年（昭和37年）3月31日まで。
引揚者の時間: 1947年（昭和22年）7月から1957年（昭和32年）3月まで。

放送時間は不明な点も多いですが、終戦後15年以上にわたり定時放送されていたため、多くの人が一度は耳にしたことがあるとされています。1950年代に民放ラジオが開局した後も、高い聴取率を維持していました。

その他

戦後50年の1995年には、テレビ朝日系列で『戦後50年企画 尋ね人の時間』が放送されました。また、新井満の小説や井上ひさしの戯曲『私はだれでしょう』など、この番組を題材にした作品も多く作られています。

横溝正史の推理小説『獄門島』には、『復員だより』を聞く場面が登場し、金田一耕助の推理のヒントとなっています。

脚注

注釈

出典

関連項目

NHKラジオ番組一覧
太平洋戦争#日本人の引き揚げと復員
引き揚げ／引揚者
引揚援護院→引揚援護庁→厚生省援護局→厚生労働省社会・援護局
復員
第一復員省→復員庁
里の秋 - 『復員だより』のテーマソング。
希望のリボン - 鹿児島県の民放MBCラジオにおける同様のフォーマットの番組。
安否情報 - 大規模災害時に放送されるこれと類似した放送。

外部リンク

復員だより - NHK放送史
復員だより 尋ね人 - NHK放送史
尋ね人 - NHK放送史
* 引揚者の時間 - NHK放送史

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