小山健三

小山健三：教育と金融の二つの分野で近代化に貢献した人物

小山健三（こやま けんぞう）は、1858年（安政5年）に武蔵国忍藩（現在の埼玉県行田市）で生まれ、1923年（大正12年）に66歳で亡くなった日本の官僚、教育者、実業家です。明治から大正にかけて、教育と金融の二つの分野で近代化に大きく貢献しました。

生い立ちと教育者としての出発

小山は、忍藩の下級武士の家に生まれました。幼少期から学問に励み、藩校で漢籍や数学を学びました。特に数学においては、関孝和の流れをくむ至誠賛化流の目録を受け、13歳で数学の助教に任命されるほどの才能を示しました。しかし、廃藩置県により藩校が廃止されたため、東京に出て学問を続けることになります。

東京では、測量術、数学、洋学、化学、語学などを幅広く学びました。その後、長野県師範学校予科の訓導として教職に就きますが、すぐに辞職。海外留学を志すも果たせず、前橋で教鞭をとった後、文部省の官僚となります。学務局で中学校の教科書検定係を務め、教育行政の道に進みました。

長崎での教育改革

1883年（明治16年）、26歳で長崎県に赴任した小山は、学務課長と長崎師範学校長を兼務し、教育界の立て直しに尽力しました。当時、長崎の教育は荒廃しており、小山はまず女子師範学校を男子師範学校に併設する形で開設。さらに、第五高等中学校（後の第五高等学校、現在の熊本大学）の前身となる第五高等中学校を設立。長崎医学校を学務課に移管し、学科過程や校則を改変して、後の長崎大学医学部の礎を築きました。また、長崎の商業学校を復活させ、商業教育の重要性を説きました。これらの功績により、長崎の教育は大きく発展することになります。

高等商業学校での改革

1895年（明治28年）、文部参事官に昇進した小山は、高等商業学校（現在の一橋大学）の校長に就任し、学校改革に着手しました。商業道徳科を設けて近代商人の職業倫理を徹底し、商学、経済学、法学を教育の中核としました。また、専攻部を設置し、国内外から専門家や実務家を招聘、若手人材を海外留学させるなど、商業教育の充実を図りました。この時の留学生の中には、後に商学の権威となる福田徳三、佐野善作、関一などがいます。さらに、高等商業学校の附属機関として外国語学校を新設し、現在の東京外国語大学の前身となるなど、日本の商業教育を大きく発展させました。小山の学校改革は、高等商業学校が後に東京商科大学（現在の一橋大学）に昇格する上での基礎を築き、学校の中興の祖とも言われています。

三十四銀行での経営手腕

1899年（明治32年）、42歳で三十四銀行（現在の三菱UFJ銀行）の第2代頭取に就任した小山は、銀行の経営を大きく転換させました。投機的な機関銀行的色彩が強かった銀行を近代的な商業銀行へと変革させ、営業時間中の羽織着用や新聞・雑誌の閲覧を禁止し、新規取引先の開拓を積極的に行いました。また、日本中立銀行、日本共同銀行を合併し規模を拡大、横浜正金銀行とのコルレス契約を締結し外国為替業務を開始するなど、銀行の業務を拡大しました。

日露戦争後、日本の産業が軽工業から重工業へと転換していく中で、担保付社債信託業務や小工業者向けの長期資金貸出を開始し、地域の産業育成に大きく貢献しました。その堅実な経営手腕により、多くの銀行が被害を受けた「石井定七事件」においても、三十四銀行は全く被害を受けませんでした。小山の経営手腕は、三十四銀行を大阪屈指の有力銀行へと成長させました。

晩年と「東の渋沢、西の小山」

小山は、1920年（大正9年）に貴族院議員に勅選されました。1923年（大正12年）、頭取在任のまま66歳で亡くなりました。

福沢諭吉の養子であり「日本の電力王」と呼ばれた福沢桃介は、小山を「東に渋沢栄一、西に小山健三あり」と評し、東西における金融界の重鎮として、政府が金融問題に取り組む際には必ず両者の意見を徴していたと述べています。また、第一次世界大戦末期に、ロシア政府の公債引き受けにおいて、日本政府の保証を付けなければ引き受けないと主張し、銀行の損失を未然に防ぐなど、その先見の明と決断力を示したエピソードも残っています。

小山健三は、教育者としては近代商業教育の基礎を築き、実業家としては銀行経営の近代化に貢献した、日本の近代化を支えた重要な人物です。

略歴

1858年：武蔵国埼玉郡忍城郭内（現在の埼玉県行田市）にて誕生。
1871年：14歳で忍藩庁から数学助教を申し付けられる。
1881年：文部省に入省。
1883年：長崎県学務課長兼長崎師範学校長に就任。
1884年：長崎女子師範学校を設立。
1891年：東京工業学校（現東京工業大学）教授兼文部書記官に就任。
1892年：文部大臣秘書官に就任。
1895年：高等商業学校（現一橋大学）校長に就任。
1897年：高等商業学校の附属として、外国語学校（現東京外国語大学）を新設。
1898年：文部省実業教育局長 兼務、文部事務次官に就任（2ヶ月で辞任）。
1899年：三十四銀行2代目頭取に就任。
1901年：大阪銀行集会所委員長に就任。
1904年：大阪手形交換所委員長に就任。
1909年：日本製糖汚職事件で、三十四銀行の損失補填のため、私財提供。
1920年：貴族院議員に勅選される。
1923年：頭取在任のまま死去。勲二等瑞宝章受章。

栄典

1891年（明治24年）12月21日 - 従七位
1911年（明治44年）8月24日 - 金杯一組
* 1915年（大正4年）11月10日 - 勲三等瑞宝章

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