小川佐助

小川佐助：競馬界とアイヌ社会を繋いだ稀代のホースマン

小川佐助（1905-1987）は、日本の競馬史にその名を刻む名調教師であり、同時にアイヌ民族の活動家として重要な役割を果たした人物です。北海道浦河郡で生まれ育った小川は、幼少期から馬に囲まれた環境で育ちました。彼の生家は、アイヌ民族の集落の近くであり、官営の日高種畜場建設によって変化する地域社会を目の当たりにしました。

高等国民学校卒業後、馬の売買で成功を収め、一時農家となりますが、知人の競馬関係者、青山市之進の影響を受け、競馬の世界へと足を踏み入れます。青山のもとで馬の育成や調教を学ぶ中で、青山は落馬事故で亡くなってしまいます。その後、中森という調教師の勧めで、関西へと移り住み、1934年に京都競馬倶楽部で騎手免許を取得しました。

1938年、日本競馬会（のちの日本中央競馬会）の調教師となり、卓越した調教技術で数々の名馬を育成。その手腕は、八大競走を制したニューフォード、皐月賞を制したニホンピローエースそして、彼の代表作と言える名馬テンポイントへと繋がります。テンポイントは、トウショウボーイ、グリーングラスと共に「TTG」と呼ばれ、1977年の年度代表馬に輝きました。しかし、翌年の日経新春杯で骨折し、その生涯を終えました。テンポイントの活躍と、小川による坂路コース建設の訴えは、関西競馬の発展に大きく貢献しました。

小川は優れた調教師であると同時に、アイヌ民族の権利擁護にも積極的に取り組んでいました。北海道アイヌ協会の設立に尽力し、常務理事を務めるなど、組織の中枢を担いました。特に、宮内省新冠御料牧場の土地解放とアイヌへの優先的分配については、農林省、宮内省、そして昭和天皇代理である高松宮宣仁親王にも働きかけました。

戦後、連合国軍最高司令部（GHQ）の将官と会見した際には、アイヌの独立について問われるも、日本国民の一員としての立場を明確にしました。しかし、この決定は協会内部で大きな議論を巻き起こしました。アイヌ独立の議論は小川宅で行われた協会の定款づくりにも及んでおり、アイヌ民族の将来を巡る複雑な状況が見て取れます。

1947年の道議会議員選挙に立候補したものの落選。1974年にはアイヌ無形文化伝承保存会を設立し、初代会長に就任するなど、アイヌ文化の保存・継承にも貢献しました。これらの活動が認められ、1979年には北海道文化財保護功労賞を受賞しています。1982年には黄綬褒章を受章しました。1986年に調教師を引退。1987年、82歳で逝去。

小川佐助の生涯は、競馬界での成功とアイヌ民族への貢献という二つの大きな柱で支えられています。彼の行動力と信念は、現代社会においても、多様な視点を持つことの重要性と、民族のアイデンティティを尊重する姿勢を示す象徴的な存在といえるでしょう。彼の残した功績は、競馬界、アイヌ社会そして北海道の歴史に深く刻まれています。 彼の管理した馬たち、そして彼を取り巻く人々の証言から、その人間性、その功績を深く理解することができるでしょう。

主な管理馬

ニューフォード（菊花賞、天皇賞（秋）など）
ニホンピローエース（皐月賞など）
テンポイント（天皇賞（春）、有馬記念など。年度代表馬）
キングスポイント（中山大障害など）

主な厩舎所属者

田所稔（騎手）
田所秀雄（騎手）
鹿戸明（騎手）
鹿戸幸治（騎手）

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