小川義綏

小川 義綏（おがわ よしやす）は、1831年に生まれ、1912年12月19日に生涯を閉じた、日本のプロテスタント史において重要な人物です。彼は、日本で最初に設立されたプロテスタント教会とされる日本基督公会（現在の日本キリスト教会横浜海岸教会などにつながります）において、初期の長老を務め、さらには同公会初の日本人牧師となりました。日本の近代におけるプロテスタント教会の基盤作りに関わった先駆者の一人として知られています。

生い立ちと背景

義綏は1831年、武蔵国多摩郡府中分梅（現在の東京都府中市）に生を受けました。父である小川藤四郎は、幕府の士班という立場にありながら農業を営んでいました。彼の青年期は幕末の動乱期と重なりますが、同郷の友人たちの多くが彰義隊に参加して上野戦争で命を落とす中、義綏は病弱であったため戦いに加わることがなく、結果的に生き残ることになりました。

キリスト教との出会い

明治維新が近づく1865年（慶応元年/文久2年）、義綏は横浜に移り住みます。ここで、オランダ改革派の宣教師ディビッド・タムソン氏と出会い、彼の日本語教師を務めることになりました。義綏はタムソン氏が行っていた旧約聖書、特にヨブ記の和訳作業に協力します。また、タムソン氏の伝道活動を助け、J・C・ヘボン博士の診療所にも通う機会を得る中で、聖書に触れるようになります。こうした経験を通してキリスト教への理解を深め、信仰へと導かれていったのです。そして、1869年（明治2年）に洗礼を受け、クリスチャンとなりました。

和歌山への訪問と初期の活動

洗礼を受けた翌年の1870年（明治3年）9月、義綏は奥野昌綱氏の親戚を通じて、和歌山藩の大参事であった津田出氏から欧米事情に関する講義の依頼を受けます。義綏はタムソン宣教師と共に和歌山を訪れました。この滞在中、彼は長崎浦上村から配流され、和歌山藩に預けられていた隠れキリシタンの人々を目の当たりにします。この体験は、彼のその後の伝道活動に大きな影響を与えたと考えられます。

1872年（明治5年）には、輪王寺宮の元家臣であった奥野昌綱氏を、かつて自身も関わったヘボン博士に日本語教師として紹介するなど、日本の初期キリスト教界で活躍する人々の間を取り持つ役割も果たしました。

日本基督公会の設立と伝道

1872年、横浜居留地に日本最初のプロテスタント教会とされる日本基督公会が設立される際、義綏は設立に関わり、奥野昌綱氏と共に長老に就任しました。しかし、翌1873年2月には、タムソン宣教師と共に東京築地へ転居したため、横浜の公会の後任長老は本多庸一氏が務めることになります。

同年、明治政府がキリスト教禁制の高札を撤廃すると、義綏は伝道活動を本格化させます。1873年9月に設立された東京基督公会（後の新栄教会）では、長老兼伝道師として奉仕しました。さらに、奥野昌綱氏と共に、1873年（明治6年）10月からは日本で初めての体系的な伝道旅行を開始します。八王子での伝道を皮切りに、牛込教会、浅草教会といった、東京における重要な初期教会を設立する働きを担いました。

牧師としての歩みと晩年

伝道活動を続ける中で、1877年10月3日、義綏は奥野昌綱氏と共に按手礼を受け、正式に牧師となりました。これは日本人としては非常に早い時期の牧師誕生であり、彼の指導者としての立場を確立しました。牧師となって間もない1878年7月15日から三日間にわたり東京公会で開催された第一回全国基督教信徒大親睦会では、「愛」をテーマに演説を行い、集まった多くの信徒に感銘を与えたと言われています。

その後も伝道と牧会に励み、1886年（明治19年）には東京本郷に明星教会を設立し、その牧師を務めました。1903年（明治39年）に本郷明星教会を辞任した後も、巡回伝道を行うなど、亡くなるまで日本の人々にキリスト教の福音を伝える働きを続けました。

小川義綏は、激動の時代にキリスト教に出会い、宣教師との協力、教会設立、伝道旅行、そして牧師としての奉仕を通じて、日本のプロテスタント教会の揺籃期を文字通り支えた一人です。その生涯は、近代日本におけるキリスト教受容の歴史を物語る貴重な記録と言えるでしょう。

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