小杉御殿

小杉御殿とは

小杉御殿は、江戸時代初期に現在の神奈川県川崎市中原区小杉御殿町に存在した、徳川将軍家の御殿（宿泊施設または休憩所）です。慶長13年（1608年）に中原街道沿いに建てられ、江戸と元箱根を結ぶ主要な街道として利用された中原街道の要所に位置していました。御殿は、将軍が鷹狩りや移動の際に利用する施設として機能しました。

歴史

造営

慶長2年（1597年）、徳川家康は多摩川沿岸を巡見した際、代官の小泉次太夫から新田開発と用水建設の提案を受けました。これを受け、中原街道沿いの小杉に小杉陣屋が設置され、新田開発と二ヶ領用水・六郷用水の建設が進められました。これらの事業は慶長16年（1611年）に完成しました。

当時、東海道はまだ十分に整備されておらず、中原街道は江戸と元箱根を結ぶ主要なルートでした。徳川家康は上洛や駿府への往還にも中原街道を利用し、鷹狩りや視察の際にもこの街道を頻繁に使いました。将軍の宿泊施設として、慶長13年（1608年）に徳川秀忠によって小杉陣屋の西隣に小杉御殿が建てられました。御殿は、中原街道が南に直角に曲がる場所の西端に位置し、西明寺の門前に沿って東西に長い敷地でした。

再築

寛永17年（1640年）には、約12,000坪（約40,000平方メートル）の広大な敷地に小杉御殿が再建されました。『中原小杉御殿沿革書上』によると、普請奉行は安藤市郎兵衛と小俣平右衛門、御殿番は同心の井出七郎左衛門でした。また、『小杉御殿見取絵図』によれば、御殿は西側の御主殿、御蔵、東側の御賄屋敷や御殿番屋敷、陣屋、代官屋敷などで構成され、表御門は中原街道に面していました。

小杉御殿は、家康、秀忠、徳川家光、徳川家綱など歴代の将軍が利用し、鷹狩りの際の休憩所として使われました。当時の小杉村は、飯屋や宿屋が立ち並び、大名、武士、町人、旅芸人などで賑わい、川崎で最も活気のある場所でした。中原街道が小杉御殿付近でカギ型に折れ曲がっているのは、御殿の防衛のためであり、周辺の多摩川、西明寺、泉澤寺も御殿の防衛に貢献しました。正保国絵図には「御殿」と記され、後の元禄国絵図では「御殿跡」となっています。

廃止

神奈川県内には、東海道沿いに神奈川御殿、藤沢御殿が設置され、江戸と中原の間には中原街道沿いに小杉御殿、下川井御殿、中原御殿がありました。しかし、中原街道の利用は予想よりも少なく、家康でさえ小杉御殿に宿泊しながらも、その東側では東海道を利用することが多かったようです。東海道が整備されると、中原街道を利用する大名が減少し、小杉御殿の存在意義は薄れました。

その結果、小杉御殿は明暦元年（1655年）に建物の一部が品川の東海寺に移築され、寛文12年（1672年）には残りが上野弘文院に移築され、廃止されました。ただし、小杉御殿の廃止は万治3年（1660年）であったとする説もあります。

跡地

延宝2年（1674年）には、御殿の跡地が耕作地となり、延宝7年（1679年）には検地を受け、高入地となりました。時期は不明ですが、江戸時代には御主殿稲荷、陣屋稲荷、御蔵稲荷という3つの稲荷が、御殿の跡地に建てられました。現在でも、御主殿跡付近には小さな祠が残っています。

千葉氏の流れを汲む原家は、小杉御殿が完成した当初は御馬屋敷の近くに住んでいました。5代目の原平六の時代には、御殿跡に屋敷「平六大尽」を構え、中原街道を通る大名などが宿泊しました。原家は天明4年（1784年）に肥料商を始め、各地に石橋を架けたと伝えられています。1877年（明治10年）頃には原家の「平六大尽」もなくなりましたが、別の屋敷で1948年（昭和23年）から1961年（昭和36年）まで割烹料亭が営まれました。この屋敷は川崎市立日本民家園に移築され、保存されています。

関連情報

小杉御殿の歴史を語る上で、以下の人物や場所が深く関わっています。

小泉次大夫：新田開発と用水建設を推進した代官
二ヶ領用水：小杉周辺の農業を支えた用水路
* 小杉陣屋：小杉御殿建設以前に存在した拠点

これらの場所や人物は、小杉御殿の歴史を理解する上で重要な要素となっています。

小杉御殿は、江戸時代の歴史と文化を伝える貴重な遺産であり、その跡地や関連する場所を訪れることで、当時の様子を偲ぶことができます。

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