二ヶ領用水

二ヶ領用水とは

二ヶ領用水は、多摩川を水源とする神奈川県下で最も古い人工用水路で、全長約32kmに及びます。この用水路は、多摩川の水を川崎市内の広範囲に供給し、かつては農業を支える重要な役割を担っていました。現在では、農業用水としての利用は減りましたが、工業用水や生活用水として活用され、沿川は住民の憩いの場としても親しまれています。

歴史

二ヶ領用水の建設は、1597年（慶長2年）に始まり、14年の歳月をかけて完成しました。名前の由来は、江戸時代の川崎領と稲毛領という二つの領地を潤していたことにあります。当初は自然流入による取水でしたが、後に堰が設けられ、安定した取水が可能になりました。特に、1724年（享保9年）には田中丘隅（休愚）による全面改修が行われ、用水路の機能が向上しました。

19世紀に入ると、二ヶ領用水は水道水源としても利用されるようになり、横浜水道会社によって取水施設が設けられました。しかし、19世紀末には東京府との間で水利権を巡る対立が発生し、多摩川の水を巡る争いが激化しました。20世紀に入ると、多摩川の砂利採掘による水位低下や水質悪化の問題が生じましたが、上河原堰や宿河原堰の建設、久地円筒分水の完成など、様々な対策が講じられました。

堰の歴史

当初は自然流入による取水でしたが、水量が不安定だったため、竹で編んだ蛇籠に玉石を入れた堰が作られました。しかし、洪水で流されることが多く、修復の負担が大きかったため、現在の固定堰が設けられました。上河原堰は1945年、宿河原堰は1949年に完成し、その後も改修が行われています。

支流と分水

二ヶ領用水には、いくつかの支流や分水があります。上河原堰から取水された水は、旧三沢川や大丸用水と合流し、さらに山下川や五反田川と合流します。また、宿河原堰から取水された水は、宿河原用水として流れます。久地では、久地円筒分水によって、根方堀、川崎堀、六ヶ村堀、久地・二子堀の4方向に正確に分水されます。

特に、川崎堀は本流の役割を果たし、幸区や横浜市鶴見区方面まで水を供給していました。また、根方堀の一部は江川として、現在もその姿を残しており、せせらぎ遊歩道として整備されています。さらに、渋川は武蔵小杉駅近くから分流し、元住吉駅付近を通って矢上川に合流し、沿道には桜並木が整備されています。

地理

二ヶ領用水は、神奈川県川崎市多摩区の上河原堰で多摩川から取水し、川崎市内の多摩区、高津区、中原区、幸区を流れ、一部は横浜市鶴見区にも流れていました。本流は、旧三沢川合流から新平瀬川合流までの区間が「二ヶ領本川（新川）」と呼ばれ、一級河川として管理されています。

取水口

上河原取水口（多摩区布田）
宿河原取水口（多摩区宿河原）

分水樋

旧三沢川・大丸用水合流
山下川合流
五反田川合流
久地円筒分水（一部がその手前で新平瀬川へ合流）
旧平瀬川合流

水路の変遷

高度経済成長に伴い、宅地化が進む中で、二ヶ領用水は農業用水としての役割を終え、生活排水の流入やゴミの不法投棄が問題化しました。その結果、下流の一部は暗渠化されましたが、水路の跡は道路や公園として整備され、往時の姿を偲ぶことができます。特に、江川せせらぎ遊歩道は、住民の憩いの場として親しまれています。

橋梁

二ヶ領用水は、多くの鉄道や主要道と交差しており、その度に橋が架けられています。代表的な橋としては、新明橋、鷹匠橋、久地橋、法泉坊橋、大石橋、新雁追橋、二子南橋、平成橋などがあります。

生物

二ヶ領用水には、コイなどの魚類が生息しており、コサギなどの野鳥が訪れます。また、沿川にはハクセキレイ、セグロセキレイ、スズメ、カルガモなど、多くの野鳥が見られます。

名所・旧跡

二ヶ領用水沿いには、多くの名所や旧跡があります。特に、桜の名所として知られるのは、宿河原の桜と住吉の桜です。宿河原の桜は、用水路沿いに約400本の桜が植えられており、春には多くの人々が花見に訪れます。また、住吉の桜は、渋川沿いに約250本の桜が植えられており、親しまれています。

親水・自然学習施設

二ヶ領せせらぎ館：宿河原堰に隣接する施設で、二ヶ領用水の歴史や自然を学べます。
川崎市緑化センター：二ヶ領用水沿いにある施設で、園芸植物の育成指導を行っています。
江川せせらぎ遊歩道：かつての根方堀の一部である江川を整備した遊歩道で、水辺の散策を楽しめます。

名称の由来

二ヶ領用水の名前は、江戸時代の稲毛領と川崎領という二つの領地を潤していたことに由来します。また、多摩川左岸の六郷用水と合わせて「四ヶ領用水」と呼ばれることもあります。

現在の二ヶ領用水

二ヶ領用水は、農業用水としての役割を終えましたが、生活用水や工業用水として、また、地域の景観を形成する要素として、現在でも重要な役割を担っています。その歴史と自然を未来に伝えるため、沿川の環境整備が進められています。

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