小松三郎左衛門

小松三郎左衛門：義に生きた宿場問屋

小松三郎左衛門は、正保2年（1645年）に信濃国金沢宿（現在の長野県茅野市金沢区）で生まれました。代々世襲の本陣問屋の四代目として、甲州街道の要所である金沢宿の運営に携わっていました。この宿場は高遠や飯田へ通じる分岐点であり、伝馬業務や人馬継立は、彼の重要な責務でした。

金沢山の山論と三郎左衛門の行動

金沢村の村民は、鳴沢山と金沢山から生活に必要な資源を得ていました。しかし、両山の境界は曖昧で、隣接する千野村との間でしばしば紛争が起こっていました。明暦2年（1656年）には、金沢山の山林所有権を巡る争い、いわゆる「山論」が勃発しました。当時の藩主、諏訪忠恒による裁定で、境界線は確定しましたが、これは田畑の境界に限定され、山林には適用されないという解釈が、後に大きな問題を引き起こします。

その後、藩主が諏訪忠晴に代わると、大水害や飢饉が相次ぎ、藩の財政は逼迫しました。延宝5年（1677年）千野村は、金沢山も入会地であると主張し、再び訴訟を起こしました。延宝6年、藩は先の裁定を覆し、金沢山全体を両村の入会地とする裁許状を下しました。この裁定は金沢村の生活基盤を脅かすものであり、三郎左衛門は村の代表として立ち上がり、裁許状を覆そうと奔走しました。

処刑とその後

延宝6年（1678年）10月25日、三郎左衛門は、藩の裁許状を覆そうとした罪で、宮川沿いの矢ノ口河原で磔に処せられました。享年34歳という若さでした。その罪状は、山論に没頭するあまり、本陣問屋としての業務を疎かにしたというものでしたが、実際には藩の権威に逆らったことに対する見せしめであったと考えられます。彼の処刑は、諏訪地方では唯一の磔刑でした。妻子は追放され、財産も没収されました。

しかし、三郎左衛門の死後、金沢山の土地は千野村の所有にはならず、最終的には藩に収公されました。その後、諏訪藩は、藩内の二十ヶ村に入会権を与え、二百年に亘る財源としました。

三郎左衛門の死から100年後の寛延2年（1749年）、処刑された場所に子孫によって地蔵尊が建てられましたが、度重なる水害で流失しました。寛政12年（1800年）には、別の場所に如意輪観音が祀られ、毎年命日には供養が行われるようになりました。この如意輪観音は「みょうり様」として、地域の人々に親しまれています。

さらに、三郎左衛門の死後200年となる明治13年（1880年）には、金沢村の村民たちが宮城上等裁判所に提訴し、村民の誠意と真実が認められ、金沢村の土地であるという勝訴判決を得ました。

現代に語り継がれる義民の精神

昭和25年（1950年）には、青柳神社境内に頌徳碑が、泉長寺裏の墓地には供養塔が建てられ、三郎左衛門の功績が称えられました。明治31年（1898年）の水害復旧工事で発見された台石の上に青面金剛像が祀られ、昭和62年（1987年）には、宮川の川底から三郎左衛門を祀る首を失った地蔵尊が発見され、復元されました。これらの活動を通じて、現在もその精神は語り継がれています。

小松三郎左衛門は、村人のために命を懸けた義民として、今もなお人々の心に深く刻まれています。彼の生涯は、不当な権力に立ち向かう勇気と、地域社会への貢献の大切さを教えてくれます。

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