入会権

入会権（いりあいけん）

入会権とは、村落共同体などが、主に山林や原野において土地を共同で利用する慣習的な物権です。具体的には、伐採、採草、キノコ狩りなどの行為を共同で行う権利を指します。

概要

入会権の対象となる土地は入会地（いりあいち）と呼ばれ、入会権を持つ共同体を
入会団体（いりあいだんたい）または入会集団（いりあいしゅうだん）と呼びます。

最高裁判所の判例では、入会団体の共同所有形態は、権利能力なき社団と同じ総有であると解釈されています。入会権は土地だけでなく、入会団体の共有物や預貯金にも及ぶことがあります。

沿革と意義

入会権は、明治時代以前から存在した村有地や藩有地の利用慣習に由来します。当時は、村民が薪炭用の間伐材や堆肥用の落葉などを採取していました。明治時代になり、近代的な所有権制度が確立する中で、入会権は民法上の物権として認められました。しかし、国有地として登録された土地における入会権については、政府と裁判所の間で解釈の相違がありました。

戦時中は、入会地が木材や木炭の生産を担っていました。戦後、村落共同体の解体や燃料事情の変化により、入会権の意義は薄れたかに見えましたが、近年では、林業や牧畜、駐車場経営などの経済活動に利用されるケースが見られます。また、道路開発や別荘地開発に伴う権利調整、山林の荒廃といった新たな問題も発生しています。そのため、入会権の現代的な意義が見直されつつあります。一方で、政府は入会権を前近代的な制度と捉え、近代的な権利への転換を目指しています。

旧慣使用権

入会権に類似する制度として、地方自治法に規定されている旧慣使用権（きゅうかんしようけん）があります。これは、地方公共団体の公有地において、市町村制施行以前からの慣習に基づき利用する権利です。旧慣使用権は、地方自治法に基づく公法上の権利であり、議会の議決を経ることで変更や廃止が可能です。入会権と旧慣使用権は歴史的起源を同じくする類似の制度ですが、法的な性質や適用される手続きが異なります。

適用法規

民法では、入会権について以下の2つの条文があります。

263条：共有の性質を有する入会権。土地の所有権が入会集団にある場合。
294条：共有の性質を有しない入会権。土地の所有権が入会集団にない場合。

実際には、共有や地役権の規定が適用される局面は少なく、長年の慣習や取り決めに委ねられていることが多いです。入会集団は、権利能力なき社団の一種であり、その所有物は構成員の総有となります。入会団体の多くは、財産処分に関する代表者が存在しないため、訴訟においては共同訴訟となります。

入会権者の権利

入会団体の構成員である入会権者は、入会収益権を持ちます。入会収益権が侵害された場合、入会権者は妨害排除請求を行うことができます。入会収益権は登記することができませんが、入会活動が行われている場合は、信義則により、第三者に対抗することができます。入会活動を中止している場合は、共有としての登記や明認方法の設置が有効です。

入会地の登記は、代表者名義や各入会権者の共有名義で行われることが多いです。行政機関名義で登記されている場合もありますが、これは当時の意思決定が曖昧であったために混乱を招いている場合があります。

入会権の内容

主体

入会権の主体は、一定の地域集団（入会団体）です。入会権者の資格は、原則として、構成員全員の合意によって定められた内部規則によりますが、入会団体内部の慣習によることもできます。一般的には、地域に居住する全住民ではなく、世帯（または世帯主）が対象とされます。

利用形態

入会地の利用形態は、歴史的には農村生活のための伐採などが主でしたが、近年では経済的な収益を目的とする事例が増えています。

直轄形態: 入会集団が直接経営する形態
分割利用形態: 各構成員に利用区域を割り当てる形態
契約形態: 入会集団が利用者と契約する形態

これらの形態のいずれか、または混合形態で利用されています。

管理方法

入会地の管理は、慣習に従い構成員による会議によって行われます。入会団体の内部規則は、構成員全員の合意があれば変更が可能です。行政機関との総有財産となっている入会地では、会計的な開示などの改革が求められています。

入会権と採草環境権

入会権と関連して、採草環境権という権利も存在します。これは、採草牧畜が行われている入会地の周辺で開発が行われた場合に、採草牧畜活動に損害が生じた場合に補償を請求できる権利です。入会権と採草環境権は、分類上は異なる権利ですが、法社会学においては、採草環境権を指して入会権と呼ぶ場合もあります。

入会権と損害賠償責任

入会地の保全管理は、各入会権者の義務であり、必要経費は他の入会権者に請求することができます。過失による損害賠償責任は、各入会権者が無限責任を負い、連帯債務となります。

入会権の処分

入会地の処分には、原則として入会団体構成員全員の同意が必要です。ただし、規約や慣習によって、役員会の同意で処分が可能な場合もあります。入会団体が代表者の定めの有る権利能力なき社団に該当する場合は、代表者の権限で入会地を処分できます。

入会権と時効

入会団体が土地に対して持つ実質的所有権（入会権）は、時効によって消滅することはありません。しかし、入会権者が入会団体に対して持つ構成員としての権利（入会収益権）は、20年で時効消滅します。また、他者が入会地を20年間占有し時効取得した場合や、入会地としての使用実態がなくなり、明認方法もない場合は、入会権は結果的に消滅します。

入会地の新規取得

権利能力なき社団が土地を購入し、構成員に開放した場合、それは入会地とみなすことができます。ただし、明治時代以降に発生したものは、「入会地」という表現は一般的ではありません。

入会権に関する訴訟

入会権をめぐる訴訟として、小繋事件が有名です。

研究領域と主な研究者

入会権の研究は、民法専攻の学者によって行われることが多いですが、法制史や社会学の範囲にも及びます。主な研究者としては、川島武宜、渡辺洋三、戒能通孝、中尾英俊、黒木三郎などが挙げられます。

参考文献

川島武宜、潮見俊隆、渡辺洋三「入会権の解体I～IV」岩波書店。
戒能通孝「入会の研究」一粒社。
中尾英俊「入会林野の法律問題」勁草書房。
渡辺洋三「入会と法」東京大学出版会。
中尾英俊「民法総合判例研究 (9) 入会権I II」一粒社。
戒能通孝「小繋事件」岩波書店。

関連項目

地方自治法
地租改正
地籍調査
コモンズ
里山
結
アジール
縄張り
囲い込み

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