小林久三

小林久三：映画と推理小説の狭間を歩んだ作家

小林久三（こばやし きゅうぞう、1935年11月15日 - 2006年9月1日）は、日本の小説家、推理作家として知られるだけでなく、脚本家やプロデューサーとしても活躍した多才な人物でした。本名は小林久三で、日本推理作家協会にも所属していました。

茨城県古河市で生まれ育った小林は、県立古河第一高校を経て東北大学文学部に進学。野村芳太郎監督、松本清張原作の映画『張込み』をきっかけに映画界への道を志し、1961年に松竹大船撮影所に助監督として入社しました。

助監督時代には、シノプシスの作成など、映画製作の様々な工程に携わった小林は、その後脚本家としての道を歩み始めます。喜劇映画を中心に多くの作品に携わり、中でも『吸血鬼ゴケミドロ』は現在でも高い知名度を誇ります。しかし共同脚本を務めた高久進によると、小林は会社からのお目付け役的な立場であり、実際には脚本執筆にはあまり関与していなかったようです。小林自身は高久のSF的なセンスを高く評価していたとされています。

1965年には松竹の合理化に伴い助監督から脚本部に、さらに1967年には本社企画室へ異動。脚本執筆から離れていた小林でしたが、1970年、短編小説「零号試写室」で作家デビューを果たします。そして1972年、冬木鋭介名義で発表した「腐蝕色彩」で第3回サンデー毎日新人賞推理部門を受賞。続く『黒衣の映画祭』『裂けた箱船』『殺人試写室』の映画撮影所三部作は、小林を推理作家として確固たる地位へと押し上げました。

作家として成功を収めた小林でしたが、そのキャリアは執筆活動だけにとどまりません。映画プロデューサーとしての顔も持ち、自らプロデュースした映画『狼よ落日を斬れ』の原作者である池波正太郎からは、「新人の間は編集者の注文を断ってはいけません」という貴重なアドバイスを受けていました。この助言は、小林の多作な執筆活動に大きく貢献したと言えるでしょう。

1974年には『暗黒告知』で第20回江戸川乱歩賞を受賞。足尾銅山鉱毒事件を題材に、社会問題を推理エンタテインメント小説として昇華させた高い手腕は、高く評価されました。また、自衛隊のクーデター計画を題材にした『皇帝のいない八月』では、自ら監督を務めることを計画していましたが、松竹が山本薩夫監督を起用したため、その機会を譲りました。

その後も小林は精力的に執筆活動を続けました。1980年には近藤昭二と共に、三億円事件の初動捜査で使用されたモンタージュ写真が別人であることを『文藝春秋』誌上で発表し、社会的な話題を呼びました。さらに、1981年から1984年にかけては、松竹撮影所時代の思い出を綴った「雨の日の動物園」を雑誌『キネマ旬報』に連載。同誌の読者賞を2度受賞するなど、その人気は不動のものとなりました。この連載では、助監督や脚本家として小林が接してきた巨匠や名匠というよりは、現場で叩き上げられた監督たちの姿や、彼らの人間性に焦点を当てています。

小林久三は、2006年9月1日、脳梗塞のため70歳でこの世を去りました。映画界と文壇、両方の世界で活躍した彼の功績は、今もなお多くの人々の記憶に刻まれています。

小林久三の主な作品

小林久三は、数多くの小説を発表しており、そのジャンルは推理小説にとどまらず幅広いものです。代表的な作品として、『暗黒告知』『黒衣の映画祭』『裂けた箱船』『殺人試写室』など、映画界での経験を生かした作品が挙げられます。また、社会問題や歴史をテーマにした作品も多く、その多様なテーマと高い執筆力は、多くの読者を魅了し続けています。

彼の著作は、単なるエンターテイメント小説にとどまらず、社会への鋭い洞察と、人間への深い理解を示しており、現代においても読み応えのある作品として高い評価を得ています。

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