皇帝のいない八月とは？意味をやさしく解説

皇帝のいない八月

『皇帝のいない八月』は、小林久三による小説、およびそれを原作とした1978年公開の映画です。この作品は、三無事件をモデルとし、社会の暗部を抉り出すような社会派推理小説の系譜に連なる作品として知られています。

概要

本作は、鉄道ミステリーの要素も取り入れつつ、自衛隊のクーデター計画という衝撃的なテーマを扱っています。作者は、自衛隊のクーデター計画「三矢研究」の存在を聞いたことが、執筆の動機になったと述べています。

1978年には、山本薩夫監督によって映画化されました。映画では、武力クーデターによって右翼政権を樹立しようとする自衛隊の反乱分子と、それを秘密裏に鎮圧しようとする政府の攻防が描かれています。舞台の中心となるのは、クーデター部隊に占拠されたブルートレイン「さくら」の車内であり、列車パニック映画としてのスリルも味わえます。原作者自身も、映画化の際に『カサンドラ・クロス』からインスピレーションを得たと語っています。

原作小説ではタイトルの意味は明確にされていませんが、映画ではクーデター作戦の名称として用いられ、劇中には同名の交響曲を収録したLPレコードも登場します。

小説

あらすじ

物語は、8月に岩手県で発生した謎のトラック事故から始まります。その翌日、三流業界紙の記者である石森宏明は、「さくら」への乗車を妨害しようとする謎の集団に狙われます。また、車内にはかつての恋人、杏子の姿もありました。巨大な陰謀が明らかになるにつれ、石森は過去に「死の商人」とも呼ばれる総合商社に勤めていた頃の記憶を呼び起こします。

書誌情報

講談社、1978年
講談社文庫、1980年 ISBN 4-06-136210-0
日本文芸社日文文庫、1997年 ISBN 4-537-08018-3
新風舎文庫、2004年 ISBN 4-7974-9334-8

マンガ版

林ひさお『皇帝のいない八月』（講談社コミックノベルス、1985年） ISBN 4-06-103825-7

映画

あらすじ

198X年、政局が不安定な夏の夜、国道4号線で不審なトラックを追跡していたパトカーが銃撃される事件が発生します。犯行に使われたのは自衛隊が保有していない5.56mm NATO弾でした。一方、陸上幕僚監部の江見為一郎は、娘の杏子を訪ねますが、杏子の夫である藤崎顕正は数日前から行方不明でした。杏子は博多駅で石森と再会し、顕正を追って「さくら」に乗り込みます。

列車が下関駅に停車中、石森は不審な動きをする男たちを目撃します。やがて、自衛隊員たちが車両を制圧し、クーデター「皇帝のいない八月」を宣言します。彼らは、アメリカに媚を売る現政権を打倒し、自衛隊を国防軍に再編しようと目論んでいました。クーデター部隊は「さくら」を占拠し、政府を制圧しようとしますが、政府もまた秘密裏に鎮圧作戦を開始します。

物語は、石森、杏子、クーデター部隊、そして政府それぞれの思惑が交錯し、緊迫した状況が描かれます。また、クーデター部隊の演説には三島事件の三島由紀夫の檄文と類似したものが用いられていました。

キャスト

藤崎顕正：渡瀬恒彦（元1等陸尉・クーデター実行部隊隊長）
藤崎杏子：吉永小百合（藤崎顕正の妻）
利倉保久：高橋悦史（内閣調査室室長）
石森宏明：山本圭（記者・杏子の元恋人）
江見為一郎：三國連太郎（陸上自衛隊幕僚監部警務部長）
佐橋総理大臣：滝沢修
大畑剛造：佐分利信（政界の黒幕）
三神陸将：丹波哲郎（防衛庁統合幕僚会議議長）

その他、山﨑努、森田健作、永島敏行、風間杜夫、渥美清など、豪華な俳優陣が名を連ねています。

撮影

映画の撮影にあたっては、国鉄（当時）の協力が得られず、「さくら」号はセットで撮影されました。予算の制約から車両などの考証は厳密ではありませんが、物語のリアリティを損なわないように工夫されています。また、自衛隊の協力も得られなかったため、火器や車両は他の作品で使用されたものが流用されました。

登場車両

EF65形1000番台電気機関車
ED76形電気機関車
14系寝台客車
DD51形ディーゼル機関車

サウンドトラック

映画のサウンドトラックは、公開当時にEP盤でリリースされ、後にCD盤で再発売されています。

その他

作中では、石森が過去に遭遇したチリ・クーデターの回想シーンがあり、『サンチャゴに雨が降る』の戦闘シーンが流用されています。

脚注

[1] 三菱大夕張鉄道の客車を使用した。

外部リンク

皇帝のいない八月 - allcinema
皇帝のいない八月 - KINENOTE
Kôtei no inai hachigatsu - IMDb（英語）

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