小澤實

小澤實 - 俳句と学問の深淵を探求する俳人

日本の俳人であり俳文学者としても知られる小澤實（おざわ みのる）氏は、1956年8月29日、長野県長野市に生まれました。本名は実（みのる）です。大学時代から俳句誌「鷹」に参加して藤田湘子に師事し、俳句の道を歩み始めました。その後、2000年には自身の俳句誌「澤」を創刊し、主宰として多くの門下を育成しています。

経歴 - 文学青年から俳句の道へ

小澤氏は長野県松本深志高等学校在学中から文学に親しみ、文学部の機関誌に小説を発表したり、自費で小詩集を制作したりするなど、文才の片鱗を見せていました。高校の同級生には、後に小説家となり長野県知事も務めた田中康夫氏がいました。

1976年、信州大学人文学部に進学すると、同大学の連句会に参加し、東明雅氏の指導を受けました。翌年には連句会で親交のあった宮坂静生氏の手ほどきを受けて俳句をはじめ、同年中に俳句誌「鷹」に入会、藤田湘子に師事します。また、大学内で信州大学俳句会を立ち上げるなど、学生時代から積極的に俳句活動に取り組みました。

大学卒業後、1979年には成城大学大学院文学研究科修士課程に進み、尾形仂氏に師事して俳文学を深めます。特に江戸時代の漢詩人、北条霞亭らの書簡解読といった研究に励みました。大学院在学中の1980年には「鷹」新人賞を、1982年には「鷹」俳句賞を受賞し、その才能が高く評価されました。1984年に博士課程の単位を取得して満期退学。1985年には「鷹」の編集長に就任し、誌の運営にも深く関わりました。

1999年、「鷹」を退会し、翌2000年に俳句誌「澤」を創刊し、主宰として活動を開始しました。川上弘美、葛西省子、林雅樹、榮猿丸など、現在俳壇で活躍する多数の俳人を門下として育てています。

俳句活動に加え、跡見学園女子大学や早稲田大学などで非常勤講師を務め、後進の指導にもあたっています。また、俳人協会常務理事、俳文学会会員、日本文藝家協会会員などを歴任し、NHK俳句の選者や角川俳句賞の選考委員としても俳壇の発展に貢献しています。

作風 - 有季定型を基盤とした技巧と俳諧味

小澤氏の作風は、有季定型を重んじる姿勢を一貫させつつ、幅広い対象を独自の視点と俳諧味豊かな表現で詠む点に特徴があります。俳句を始めた20代の頃から技巧派と称され、その技術は歳とともに洗練されていきました。

代表的な句としては、「本の山くづれて遠き海に鮫」「ゆたんぽのぶりきのなみのあはれかな」（句集『砧』所収）、「夏芝居監物某出てすぐ死」「大寺のいくつほろびし日向ぼこ」（句集『立像』所収）、「林中にわが泉あり初茜」「神護景雲元年写経生昼寝」（句集『瞬間』所収）などがあります。これらの句からもわかるように、日常的な景や歴史的な情景を鮮やかに切り取っています。

句会での題詠を得意としており、「神護景雲元年写経生昼寝」の句も、句会で「神」という席題が与えられた際に即興で作られたものです。また、特に第三句集『瞬間』以降、「たれ刷いてうなぎの艶やさらに刷く」のような、中七で一句の切れを設け、下五で対象の描写を重ねて強調する独特の手法を好んで用いています。この句風は門下生にも見られ、「澤調」あるいは「一物深掘り」とも呼ばれています。

自身の俳句観については、「俳句は謙虚な詩である」という言葉で表現しており、作者の個性を前面に出すよりも、詠む対象、読者、そして言葉そのものを大切にすることを重視しています。これは、俳句の挨拶性という側面に重きを置く姿勢の表れと言えるでしょう。

受賞歴と主要著書

その俳句活動は高く評価されており、多くの文学賞を受賞しています。主なものとして、1998年に第二句集『立像』で第21回俳人協会新人賞、2006年に第三句集『瞬間』で第57回読売文学賞詩歌俳句賞を受賞。2008年には評論集『俳句のはじまる場所』で第22回俳人協会評論賞を受賞し、評論家としても力量を示しました。さらに、2022年には『芭蕉の風景』で第73回読売文学賞随筆・紀行賞、2024年には句集『澤』で第58回蛇笏賞と第23回俳句四季大賞を受賞するなど、現在まで第一線で活躍し続けています。

主な著書には、句集『砧』『立像』『瞬間』『瓦礫抄』『澤』などがあります。また、俳句に関する評論や随筆も多く手掛けており、『万太郎の一句』『俳句のはじまる場所』『名句の所以』『芭蕉の風景』といった著作を通じて、自身の俳句観や俳文学への深い洞察を提示しています。共編著や監修も多数あり、俳句の普及や理解促進にも努めています。

学問的背景に裏打ちされた深い教養と、磨き上げられた技巧に裏打ちされた豊かな表現力をもって、俳句の新たな地平を切り開き続けている俳人と言えます。

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