小野春風

小野春風（おの の はるかぜ）は、平安時代前期に活躍した貴族であり、歌人としても知られています。従五位上・小野石雄の子として生まれ、官位は正五位下・右近衛少将にまで昇りました。彼の生涯は、武官としての活躍と、地方官としての行政手腕、そして歌人としての才能が織りなす、多才な人物像を描いています。

武官としての経歴

春風は、文徳朝から清和朝初期にかけて、右衛門少尉や右近衛将監といった武官を歴任しました。その後、貞観6年（864年）には武蔵介として地方官に転じますが、貞観12年（870年）には、新羅の入寇に対応するため、対馬守に任ぜられます。対馬守在任中、春風は甲冑の防御力を高めるための保侶衣1000領と、兵糧を携帯するための革袋1000枚の必要性を朝廷に訴え、その製作を実現しました。さらに、かつて蝦夷の乱で父が使用した羊革と牛革の鎧を陸奥国から取り寄せて九州の警備にあたりたいと願い出て、羊革の鎧を与えられています。その後、左近衛将監に転じますが、讒言により免官となります。

元慶の乱での活躍

陽成朝の元慶2年（878年）に元慶の乱が勃発すると、春風は出羽権守・藤原保則の推挙により、鎮守府将軍に任ぜられました。陸奥権介・坂上好蔭と共に、精兵500人と甲冑を与えられ、陸奥国から秋田城へ救援に向かいます。春風らは、まず上津野（鹿角）に入り、陸奥・出羽両国の兵と協力して俘囚を挟撃し、勝利を収めました。その後、俘囚側が降伏を希望する動きを見せましたが、春風は当初、その真意を疑っていました。しかし、9月末には自ら敵地に入り、降伏の文書を作成させ、俘囚側の指揮者を伴って帰還しました。この時、春風は武器を捨て、単身で夷俘の中に乗り込み、夷語を用いて降伏を促したと伝えられています。こうして、春風は硬軟織り交ぜた対応で俘囚を降伏させ、乱の鎮圧に大きく貢献しました。乱の終結後も鎮守府将軍を務め、元慶6年（882年）には従五位上に叙されています。

その他の活躍

光孝朝の仁和3年（887年）には、大膳大夫に任ぜられます。同年、出羽介・坂上茂樹が地震による地勢変化を理由に国府移転を願い出た際、春風は蝦夷征討の従軍経験を買われ、太政官で意見を述べました。その後、摂津権守、左衛門権佐、右近衛少将、陸奥権守、讃岐権守と、光孝朝から宇多朝にかけても主に武官や地方官を歴任し、その多才ぶりを発揮しました。醍醐朝の昌泰元年（898年）には正五位下に至っています。

人物像

春風は「累代の将家にして、驍勇人に超えたり」と称賛されるほどの武人であり、若い頃に辺境で生活したことから、夷語にも通じていました。また、大臣の非違を直言することもあったと伝えられています。和歌にも秀でており、勅撰歌人として『古今和歌集』に2首が収録されています。

花薄 穂にいでて恋ひば 名を惜しみ 下ゆふ紐の むすぼほれつつ
天彦の おとづれじとぞ 今は思ふ 我か人かと 身をたどる世に

さらに、村上朝において、春風が献上した甲一領が蔵人所に所蔵されていたという記録も残っています。

官歴

仁寿4年（854年）11月2日：右衛門少尉
天安2年（858年）9月1日：右近衛将監
貞観6年（864年）正月16日：武蔵介
貞観12年（870年）正月25日：従五位下、対馬守。3月27日：兼肥前権介
元慶2年（878年）6月8日：鎮守府将軍兼相模権介
元慶6年（882年）正月7日：従五位上
仁和3年（887年）5月13日：大膳大夫。6月13日：摂津権守
仁和4年（888年）3月：左衛門権佐
寛平2年（890年）正月28日：右近衛少将。閏9月20日：陸奥権守
寛平3年（891年）正月30日：讃岐権守
* 昌泰元年（898年）日付不詳：正五位下

小野春風は、平安時代前期における多才な人物の一人であり、武人、行政官、歌人としての才能を発揮し、その生涯は後世に語り継がれています。

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