藤原保則

藤原保則（ふじわら の やすのり）は、平安時代前期に活躍した公卿です。藤原南家豊成流の出身で、父は左兵衛佐の藤原貞雄です。最終的な官位は従四位上・参議にまで至りました。

地方官としての卓越した手腕

保則は、中央での官職を歴任した後、地方官としてその才能を大きく開花させました。まず備中国に赴任した際には、飢饉と悪政で疲弊した民衆を救済するため、貧民への食料配給や勧農を積極的に行い、荒廃した国を立て直しました。その善政は近隣諸国にも広く知れ渡り、盗賊がその徳に感銘を受け自首したという逸話も残っています。

清和朝中期には備中守、備前権守を歴任し、その治績は高く評価され、治国の功績により従五位上に昇進しました。彼が任を終えて帰京する際には、多くの人々が別れを惜しみ、その人望の厚さを物語っています。

出羽国での反乱鎮圧

その後、保則は平安京に戻り、右衛門権佐や検非違使佐として都の治安維持に尽力、民部大輔も兼任しました。陽成朝に入ると右中弁に任じられました。

元慶2年（878年）、出羽国で夷俘による大規模な反乱が発生すると、保則は地方官としての豊富な経験を買われ、鎮圧の任を命じられます。朝廷は彼を正五位下・出羽権守に任命し、出羽守の藤原興世ら国司に対し、軍事面での指揮権を与えました。

保則は着任後、まず軍事的な措置として、上野国の兵士を秋田河南岸に配置し、俘囚や良民を活用して防備を固めます。同時に、それまでの苛政を改め、備蓄米を俘囚に提供して懐柔策を講じました。また、兵力不足を補うため、常陸国や武蔵国の兵士の動員を朝廷に求めました。

保則の指揮下、朝廷軍は連戦連勝を重ね、短期間で反乱を鎮圧することに成功します。また、保則は戦勝を祈願し、出羽国諸神への増封や叙勲を朝廷に奏上し、実現させています。降伏した夷俘に対しては寛大な措置を取り、その後の帰順を促しました。朝廷がなおも追討を命じる中で、保則は寛容な政策こそが上策であると進言し、朝廷はこれを容れ、鎮圧軍を解散しました（元慶の乱）。

公卿としての活躍

元慶6年（882年）には従四位下に昇叙され、仁和3年（887年）には伊予守に任じられましたが辞退し、大宰大弐に任じられます。同年11月には宇多天皇の即位に伴い従四位上に叙せられました。

宇多天皇は保則の力量を高く評価し、寛平3年（891年）には左大弁、翌寛平4年（892年）には参議に任じ、公卿に列せました。議政官として、左大弁・近江権守、民部卿を兼帯しました。

寛平7年（895年）に71歳で亡くなりました。死の間際には比叡山に入り、念仏を唱えながら生涯を終えたと伝えられています。

三善清行は、保則の功績を称えて『藤原保則伝』を著しました。保則は、地方官としての卓越した能力と民を思う善政によって、後世に語り継がれる人物となりました。

官歴

斉衡2年（855年） 3月：治部少丞
斉衡3年（856年） 日付不詳：民部大丞
天安2年（858年） 日付不詳：兵部少丞
貞観元年（859年） 3月21日：兵部大丞
時期不詳：正六位上
貞観2年（860年） 8月15日：後次第司判官（伊勢齋内親王行禊）
貞観5年（863年） 2月10日：式部少丞
貞観8年（866年） 正月7日：従五位下。正月13日：備中権介
貞観13年（871年） 正月7日：従五位上（治国労）。正月29日：備中守
貞観16年（874年） 正月15日：備前権守
貞観18年（876年） 正月14日：右衛門権佐。2月15日：民部大輔。11月28日：近江国固関使（清和天皇譲位）
貞観19年（877年） 正月15日：右中弁
元慶2年（878年） 5月4日：正五位下、兼出羽権守
元慶3年（879年） 正月11日：兼出羽守
元慶5年（881年） 7月16日：兼播磨権守
元慶6年（882年） 正月7日：従四位下。2月3日：兼讃岐権守
仁和3年（887年） 2月2日：伊予守。8月22日：大宰大弐。11月17日：従四位上
寛平3年（891年） 4月11日：左大弁
寛平4年（892年） 4月28日：参議
寛平5年（893年） 正月11日：兼近江権守。2月22日：兼民部卿、去左大弁
寛平7年（895年） 4月21日：卒去（参議従四位上民部卿）

系譜

父：藤原貞雄
母：安倍弟当の娘
妻：在原美子（在原業平の娘）
四男：藤原清貫（867-930）
生母不詳
男子：藤原万緒

脚注

出典
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 下巻』戎光祥出版、2009年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第二篇』吉川弘文館、1987年

関連作品

書籍
* 田牧久穂『元慶の乱・私記』無明舎出版、1999年、ISBN 4-89544-202-0

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