小野神社 (多摩市)

多摩市に位置する小野神社は、古くから「武蔵国一宮」として崇敬される格式高い神社です。『延喜式神名帳』に名を連ねる式内社「武蔵国多磨郡 小野神社」の論社の一つであり、府中市にある同名の小野神社と共に、古代武蔵国の重要な神社として歴史を歩んできました。両社の関係については諸説あり、多摩川の氾濫による遷座の結果分かれた、あるいは本社と分祠の関係にあるなどと伝えられています。

当社が武蔵国一宮として広く認識されるようになったのは、中世に近隣に武蔵国府が設置されたことと深く関連しています。国府が置かれた地域の代表的な神社としてその地位を高め、武蔵国総社である大國魂神社（府中市）の例祭「くらやみ祭」では、一宮として行列に加わる伝統が現代まで続いています。武州六大明神の一つにも数えられる、由緒ある存在です。

古文献には当社の存在を示す記述が見られます。宝亀3年（772年）の太政官符には「多磨郡□野社」と記されており、これが当社に関する最古の記録と考えられています。『日本三代実録』によれば、元慶8年（884年）に神階が正五位上に昇叙されたとあり、平安時代には既に朝廷からの信仰を受けていたことがうかがえます。10世紀前半に成立した『延喜式神名帳』では、官社として当社の名が「小社」として記載されています。『吾妻鏡』の治承5年（1181年）の記事には、現在の多摩市一ノ宮周辺を指す「一宮」という地名が見え、当時の地域名として定着していたことがわかります。南北朝時代の『神道集』にも一宮として記載されており、その地位が長く維持されていたことがうかがえます。

戦国時代には後北条氏や太田道灌といった有力者たちの崇敬を受け、江戸時代には「一宮大明神」と称され、江戸幕府から15石の朱印地を寄進されるなど、時の権力者による保護のもと栄えました。近代に入り、明治時代には明治6年（1873年）12月付で郷社に列格しています。

祭神
現在の主祭神は以下の八柱の神々です。

天下春命（あまくだりはるのみこと）
瀬織津比咩命（せおりつひめのみこと）
伊剴諾尊（いざなぎのみこと）
素盞嗚尊（すさのおのみこと）
大己貴大神（おおなむちのおおかみ）
瓊々杵尊（ににぎのみこと）
彦火火出見尊（ひこほほでみのみこと）
倉稲魂命（うかのみたまのみこと）

また、古くは小野氏の祖神である天押帯日子命を祀っていたとする説も伝えられています。

境内と文化財
境内の社殿や鳥居、随身門、賽銭箱などには、皇室の象徴である十六菊の菊花紋章が随所に配されており、当社の歴史的な重みと格式を表しています。境内には、伊勢神宮内外両宮の祭神をはじめ、様々な神々を祀る多数の摂末社が鎮座しています。

当社が所蔵する「木像随身倚像」二躯は、東京都指定有形文化財（彫刻）に指定されています。これらの像は、随身門に安置される武官の姿を表した木像です。一躯は鎌倉時代末期の元応元年（1319年）頃の制作とされ、もう一躯は江戸時代初期の寛永5年（1628年）に新たに造られたものです。いずれも檜材を用いた寄木造りで、彩色が施され、眼には玉眼が嵌入されています。時代の異なる優れた木彫作品ですが、現在一般には公開されていません。

年中行事
年間を通じて様々な祭典が斎行されます。主な祭事として、1月1日の元旦祭、2月の節分祭・初午祭・祈念祭、そして5月5日には大國魂神社へ神幸する六所宮神幸祭が行われます。9月第2日曜日には年間で最も重要な例大祭が執り行われるほか、11月の新嘗祭、12月31日の除夜祭などがあります。

アクセス
小野神社は、京王電鉄京王線の聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩約6分の位置にあり、容易に参拝できます。

関連情報
武蔵国一宮の論社としては、府中市の小野神社が存在します。また、大國魂神社の「くらやみ祭」への参列や、「聖蹟桜ヶ丘」「小野路」といった周辺の地名からも、当社の歴史的な繋がりを感じ取ることができます。

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