尺別信号場

尺別信号場：炭鉱と共に生きた駅の記憶

尺別信号場は、北海道釧路市音別町尺別にあるJR根室本線の信号場です。かつては尺別駅として、地域の発展に大きく貢献しました。電報略号はヤク、事務管理コードは▲110429、旅客営業当時の駅番号はK44でした。

歴史

尺別駅は、北日本鉱業が尺別炭礦運炭軌道（後の雄別炭鉱尺別線）向けの分岐線設置を計画したことがきっかけで、1920年（大正9年）に貨物駅として開業しました。その後、旅客の取り扱いも開始し、地域の足として親しまれました。

しかし、1970年（昭和45年）に尺別炭鉱が閉山。駅の利用者は減少し、2019年（平成31年）3月16日に旅客取り扱いを廃止、信号場となりました。

年表

1920年（大正9年）
1月22日：北日本鉱業 軽便運炭軌道尺別岐線 - 尺別炭山間が開業。
4月1日：鉄道院釧路本線 直別駅 - 音別駅間に尺別駅として開業。
1925年（大正14年）2月1日：一般貨物の取扱い開始。
1930年（昭和5年）4月1日：旅客・手荷物・小荷物取扱い開始。一般駅となる。
1942年（昭和17年）11月3日：雄別炭礦尺別炭礦鉄道運転開始。
1945年（昭和20年）：尺別炭礦休山により側線及び転車台が遊休施設となる。
1952年（昭和27年）3月4日：十勝沖地震で駅舎倒壊。
1953年（昭和28年）：新駅舎完成。
1961年（昭和36年）6月3日：尺別炭礦鉄道が尺別鉄道となり、一般旅客扱い及び国鉄との貨物連帯輸送開始。
1970年（昭和45年）4月16日：雄別炭礦尺別鉄道廃止。
1971年（昭和46年）10月2日：根室本線滝川駅 - 釧路駅間完全CTC・自動信号化に伴い駅員無配置駅となる。
1987年（昭和62年）4月1日：国鉄分割民営化によりJR北海道に継承。
2000年（平成12年）7月14日：普通列車が脱線事故。
2019年（平成31年）3月16日：旅客取り扱い廃止。尺別信号場となる。

信号場名の由来

尺別の地名は、現在の尺別川を指すアイヌ語に由来するとされていますが、その語源には諸説あります。

「夏・川」を表す「サㇰペッ（sak-pet）」
「無い・川」を表す「サㇰペッ（sak-pet）」
「乾かす・川」を表す「サッテペッ（satte-pet）」
* 「乾く・川」を表す「サッペッ（sat-pet）」

これらの名称は、かつて夏にこの川で食料を得ていたこと、夏に川が乾くこと、水が少なく鮭鱒が遡上しなかったことなどが由来として推測されています。

構造

2線を有する列車交換型の信号場です。旅客営業当時は相対式2面2線のホームを持つ地上駅で、音別駅が管理する無人駅でした。

雄別炭鉱尺別線が運用されていた頃は、中線を有する相対式ホーム2面2線で、駅舎直別側に貨物ホームと引込線、本線駅裏側に雄別炭鉱用の留置・仕訳用側線5本及び機回し線1本が釧路側から分岐していました。機回し線の社尺別駅寄りには転車台がありました。

駅舎は1953年（昭和28年）に完成した2代目が、減築・改修などを経て駅廃止まで使用されました。

利用状況

炭鉱閉山以前は、1日に2000人を超える乗降があったとされています。しかし、2013 - 2017年（平成25 - 29年）の1日平均乗車人数は1.0人でした。

周辺

信号場の周辺には民家が数軒あります。かつては炭鉱の社宅や国鉄官舎が並び、食料品店、旅館、パチンコ店などもありましたが、炭鉱の閉山と共にその賑わいは失われました。

紗枝の家

2010年（平成22年）公開の映画『ハナミズキ』に登場する主人公の一人、平沢紗枝の実家として撮影に使用されたオープンセットが保存されています。

北海道道361号尺別尺別停車場線

旧尺別鉄道と並行しています。かつて数千人が暮らした市街地がありましたが、閉山により消滅し、わずかに街路の跡と崩れた屋根が残るのみです。

隣の駅

北海道旅客鉄道（JR北海道）

■根室本線

厚内駅 (K42) - （直別信号場） - （尺別信号場） - 音別駅 (K45)

記録と調査

釧路市立博物館では、廃止になった駅や簡易軌道などの調査と研究を行っており、記録や資料、証言を収集しています。2019年（平成31年）には、尺別駅と直別駅の廃止に合わせてミニ企画展が開催され、駅名標や時刻表などが展示されました。また、展示内容とその後の調査結果などをまとめたブックレット『尺別駅と直別駅』が刊行されています。

尺別信号場は、炭鉱の歴史と共に歩んだ駅の記憶を今に伝える貴重な存在です。

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