尼崎博正

尼崎博正

日本の造園学者であり、優れた作庭家としても知られる尼崎博正（あまさき ひろまさ）氏は、1946年1月21日に兵庫県で生まれました。長年にわたり造園学の研究・教育、そして実際の作庭活動に従事し、さらには日本の貴重な文化財庭園の保護・継承に多大な貢献をしています。

学歴と研究の礎

1968年に京都大学農学部を卒業後、造園学の道を深く探求しました。その学問的成果は、1992年に同大学から授与された農学博士号に結実しています。博士論文のテーマは「古庭園の石質と水系に関する研究」であり、この研究は、日本庭園の構成要素として極めて重要な「石」と「水」の関係性を深く掘り下げたもので、その後の尼崎氏の研究活動や作庭思想の基盤となりました。

教育者としての歩み

尼崎氏は教育者としても長く活躍しました。京都芸術短期大学では学長として大学運営に携わり、その後、京都造形芸術大学（現・京都芸術大学）では副学長を務めました。現在は同大学の名誉教授であり、日本庭園研究センター所長、日本庭園・歴史遺産研究センター名誉教授として、造園学分野における後進の育成と研究の推進に尽力しています。

作庭家としての実績

作庭家としては、個人の邸宅から公共空間まで、様々なタイプの庭園を手がけてきました。その代表的な作品には以下のようなものがあります。

安田邸の庭（京都市）
松久邸・石引邸の庭空間（大津市）
京都留学生会館の庭（京都市）
五風舎の庭（奈良市）
料亭・魚庄の中庭（近江八幡市）
中野邸の外構え（大津市）
細川邸の庭（和歌山市）
「洛北の家」の庭（京都市）
高麗橋の屋上庭園（大阪市）
文齋窯の中庭と坪庭（京都市）

また、福寿園京都本店「天空の庭」や京都迎賓館庭園では監修を務めるなど、大規模なプロジェクトにも関わっています。特に、国際花と緑の博覧会に出展された「むさしの山野草園」は、その設計が高く評価され、1992年に日本造園学会賞（設計作品部門）を受賞しています。

研究・著作活動

尼崎氏の研究成果は、多くの重要な著作として公表されています。単著としては、

『石と水の意匠 植治の造園技法』（淡交社、1992年）
『図説・茶庭のしくみ 歴史と構造の基礎知識』（淡交社、2002年）
『庭石と水の由来 日本庭園の石質と水系』（昭和堂、2002年）
『市中の山居 尼崎博正作庭集』（淡交社、2006年）
『七代目小川治兵衛 山紫水明の都にかへさねば』（ミネルヴァ書房、2012年）

などがあり、植治（小川治兵衛）の造園技法や茶庭、日本庭園における石と水の関係性、そして自身の作庭思想など、多岐にわたるテーマを深く掘り下げています。さらに、

『植治の庭 小川治兵衛の世界』（淡交社、1990年）
『都ホテル葵殿庭園及び佳水園庭園』（都ホテル、1994年）
『庭園史をあるく 日本・ヨーロッパ編』（昭和堂、1998年）
『風景をつくる 現代の造園と伝統的日本庭園』（昭和堂、2001年）
『造園史論集』（養賢堂、2006年）
『對龍山荘 植治と島藤の技』（淡交社、2007年）
『すぐわかる日本庭園の見かた』（東京美術、2009年）

などの共編や監修も手掛けており、研究成果の普及や後進の研究活動の支援にも大きく貢献しています。

文化財保護と社会貢献

教育、研究、作庭活動に加え、尼崎氏は日本の文化財保護や学術振興において中心的な役割を担ってきました。学外における主な役職は以下の通りです。

日本イコモス国内委員会理事
文化庁文化審議会文化財分科会第三専門調査会名勝委員会委員
文化庁史跡等における歴史的建造物の復元の取扱いに関する専門委員会委員
文化財庭園保存技術者協議会評議会員
宮内庁御所離宮庭園特別整備技術指導委員
京都市美観風致審議会委員
京都市保育園連盟顧問
元離宮二条城保存整備懇談会副座長
並河靖之七宝記念館評議員
滋賀県文化財保護審議会副会長
大阪市文化財保護審議会委員
日本造園アカデミー会議副議長
日本造園学会評議員
茶の湯文化学会理事
日本造園修景協会評議員
史迹美術同攷会会長

これらの多岐にわたる役職を通じて、国の名勝に指定されている庭園や、歴史的建造物に関わる景観の保存・復元・整備に関する専門的な提言や技術指導を行い、日本の貴重な歴史遺産の保護に不可欠な貢献を果たしています。学会活動においても、日本造園学会や茶の湯文化学会などで要職を務め、学術の発展と交流に寄与しています。

結び

尼崎博正氏は、造園学者として深い学識を持ち、作庭家として数々の優れた庭園を創造し、教育者として次世代を育成し、さらには文化財保護の第一線で日本の歴史的庭園の保存に尽力するなど、その活動は極めて多岐にわたります。日本庭園の伝統を深く理解しつつ、それを現代に継承・発展させるための彼の情熱と貢献は、日本の造園界、そして文化財保護分野において、計り知れない重要性を持っています。

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