山下正 (料理人)

山下正：料理と文化を愛した稀有な人物

山下正（1912年 - 2011年）は、北海道苫小牧市で愛された老舗洋食店「第一洋食店」の二代目店主です。単なる料理人としてだけでなく、文化人、美術品コレクターとしての顔も持ち合わせていました。

第一洋食店と文化人たち

山下正は、父である山下十治郎から受け継いだ「第一洋食店」を切り盛りする傍ら、芸術や文化にも深い関心を寄せていました。彼の元には、日本の文化を愛する人々が数多く集まり、店は苫小牧の文化サロンとしての役割も担っていました。

特に、民藝運動に関わる芸術家たちとの交流は特筆すべきでしょう。川上澄生や芹沢銈介といった著名な芸術家たちと親交を深め、彼らとの交流を通じて、多くの美術品や工芸品を収集しました。

山下正コレクション

「山下正コレクション」は、彼の幅広い興味と審美眼を反映したコレクションです。

川上澄生との繋がり

第二次世界大戦中、北海道白老町に疎開していた版画家・川上澄生は山下と親交があり、第一洋食店には川上の版画が飾られていました。コレクションには、川上澄生の版画が数十点も含まれています。

多様な美術品の収集

三雲祥之助、原精一、国松登といった画家たちの作品も収集しており、稀覯本や蔵書票、文化人との手紙のやり取りなども残されています。これらのコレクションは、第二次世界大戦前後の文化環境を理解する上で貴重な資料となっています。

民藝運動の芸術家たちとの交流

1960年代には、民藝運動の芸術家たちとの交流が盛んになりました。芹沢銈介は、平取町でアイヌ文様の調査を行った際に山下家に宿泊し、第一洋食店のロゴをデザインしています。また、濱田庄司やバーナード・リーチも第一洋食店を訪れ、彼らの陶芸作品も「山下正コレクション」に加えられました。

コレクションの公開

「山下正コレクション」は、第一洋食店の開業100周年を記念して2019年に苫小牧市美術博物館で開催された特別展「第一洋食店の100年と苫小牧」で展示されました。また、2020年には、川上澄生美術館（栃木県鹿沼市）で特別企画展「ようこそ鹿沼へ! 山下正 川上澄生コレクション展」が予定されていましたが、コロナ禍の影響で延期となっています。

少年時代から料理の道へ

1912年、山下正は山下十治郎の次男として苫小牧市に生まれました。小学生時代は、『北海道小学生新聞』や『日本少年』といった雑誌の愛読者であり、これらの雑誌に投稿したり、自身で雑誌を作ったりすることに熱中していました。自作の雑誌を交換する仲間には、後に童話作家となる和田義雄や、北海道教育委員長となる安藤鉄夫がいました。

15歳からは、父・十治郎のもとでフランス料理人として修業を開始します。他の店での修行経験がないため、横浜グランドホテルで修行した父から、日本に伝わった当時のフランス料理をそのまま継承することになりました。

第一洋食店を継承

その後、山下正は「第一洋食店」の二代目店主として店を切り盛りしました。晩年は、店を長男夫婦に譲り、晴耕雨読の日々を送る一方で、時折厨房に立ち、その腕を振るっていたそうです。

2011年、山下正は生涯を閉じました。

著作

山下正は、自身の著作『父は明治のコックさん: 苫小牧第一洋食店物語』（近代映画社、2006年）の中で、自身の生い立ちや店、文化人との交流について語っています。

山下正は、料理人としてだけでなく、文化を愛し、芸術を愛でた人物でした。彼の人生は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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