山口文象

山口文象：モダニズムと和の調和を追求した建築家

山口文象（1902-1978）は、20世紀日本の建築界に多大な影響を与えた建築家です。モダニズム建築の担い手として知られる一方、和風建築にも深い造詣を持ち、その両方を融合させた独自の建築スタイルを確立しました。本稿では、彼の生涯と建築作品を詳しく見ていきます。

生い立ちと建築家への道

東京浅草生まれの山口は、宮大工を祖父、清水組（現清水建設）の大工棟梁を父にもつ家系に育ちました。建築への関心の高まりから、東京高等工業学校附属職工徒弟学校木工科に入学。卒業後、清水組に入社しますが、建築家への夢を諦めきれず、1920年に退社。その後、逓信省営繕課の製図工として働き始めます。

この職場での出会いが、彼の運命を大きく変えました。山田守や岩元禄ら著名な建築家と交流し、才能を認められ、1923年には近代建築運動グループ「分離派建築会」に参加。関東大震災直後には、仲間たちと「創宇社建築会」を結成し、新たな建築運動を展開しました。

多彩な活動と建築作品

山口は、帝都復興院（後の内務省復興局）嘱託技師として関東大震災復興事業にも携わり、数々の橋梁のデザインに参画しました。清洲橋、数寄屋橋、浜離宮南門橋などがその代表例です。さらに、日本電力の嘱託技師として、富山県の庄川や黒部川ダム・発電所の設計にも関わりました。黒部川第二発電所関連のプロジェクトでは、発電所本体だけでなく、鉄橋やダムといった土木構造物全体をデザインするなど、建築家としての幅広い能力を発揮しました。

1932年、山口蚊象建築設計事務所を設立。代表作である日本歯科医学専門学校付属医院（1934年竣工）は、最先端のモダニズム建築として高い評価を受けました。その後も、番町集合住宅や小林邸など、数々のモダニズム建築を発表し、建築家としての地位を確立しました。

和風建築への造詣

モダニズム建築で知られる山口ですが、大工棟梁の息子として育った背景から、和風建築にも深い造詣を持っていました。鎌倉浄智寺関口邸茶席や前田青邨邸、林芙美子邸など、数々の木造和風住宅を設計しました。これらの作品は、積極的に公表されることはありませんでしたが、高い評価を受けています。

戦後とRIAグループ

戦後は、猪熊弦一郎らと共に新制作協会建築部を設立。1951年には三輪正弘、植田一豊らと「RIAグループ」を結成し、集団建築設計方法を模索しました。1953年には「RIA建築綜合研究所」（現在の株式会社アール・アイ・エー）を設立し、戦後のモダニズム住宅設計をリード。新制作座文化センターや朝鮮大学校校舎など、多くの建築物を設計しました。

土木デザインへの貢献

山口は、橋梁やダムといった土木構造物のデザインにも積極的に関わりました。清洲橋や数寄屋橋のデザインでは、構造物としての機能性と、美的な要素の両方を追求。黒部川第二発電所関連のプロジェクトでは、渓谷の自然環境に配慮したデザインを実現しました。彼の土木デザインには、装飾的な要素はほとんどなく、構造物自体のプロポーションの美しさを追求する姿勢が見られます。

名前の変遷

山口文象という名前は、彼の人生を象徴するものです。出生名は山口瀧蔵でしたが、養子縁組や姓名判断を経て、岡本蚊象、山口蚊象、そして山口文象と、何度も名前を変えました。その過程には、彼の複雑な人生と、建築家としての揺るぎない信念が感じられます。

まとめ

山口文象は、モダニズム建築と和風建築、そして土木デザインを融合させた独自の建築スタイルで、日本の建築界に大きな足跡を残しました。彼の作品は、時代を超えて人々に感動を与え続け、現代建築にも多大な影響を与え続けています。彼の生涯と建築作品を通じて、日本の近代建築史を深く理解することができます。

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