山崎聖天

山崎聖天：歴史と信仰の息づく寺院

京都府乙訓郡大山崎町に位置する山崎聖天は、正式には観音寺という真言宗系の寺院です。山号は妙音山、本尊は十一面千手観音です。しかし、境内では歓喜天（聖天）が祀られており、この名が広く知れ渡り、人々の信仰を集めています。

天王山の東側山腹に建つ境内は、春になると桜が咲き誇り、多くの参拝者で賑わいます。その美しい景観は、古くからの信仰と自然が調和した、静寂と活気が同居する空間を醸し出しています。

歴史の軌跡：興亡と再興

寺伝によれば、山崎聖天は昌泰2年（899年）に宇多法皇（寛平法皇）の勅願によって創建されたと伝えられています。しかし、その後は衰退の道をたどります。

江戸時代初期、摂津国勝尾寺の僧・木食以空によって再興されました。この時、聖徳太子の作とされる十一面千手観音像が本尊として迎えられ、新たな歴史が始まります。

その後、歓喜天を祀るようになると、霊元天皇、東山天皇、中御門天皇といった皇室からの篤い帰依を受けるようになりました。さらに、住友家、三井家、鴻池家といった近世の有力な商人たちからも信仰を集め、商売繁盛や家運隆昌を願う人々の拠り所として、大きく発展しました。このため、観音寺という正式名称よりも「山崎の聖天」として広く知られるようになったのです。

かつて山崎の地は、西国街道と山崎宿が交わる賑やかな場所でした。観音寺はその街道沿いに、宝積寺、西観音寺（現在の椎尾神社）とともに位置し、往時の活気を偲ばせます。

しかし、歴史の波は山崎聖天をも襲います。元治元年（1864年）、禁門の変において、尊皇攘夷派の兵士たちが天王山に陣地を構えたため、幕府軍の攻撃を受け、寺院は全焼してしまいました。この時、事前に避難させていた本尊の十一面千手観音像と歓喜天像、そして土蔵だけが奇跡的に焼け残りました。

明治維新後、神仏分離令や廃仏毀釈によって、西観音寺は廃寺となり椎尾神社となりました。その際、西観音寺の仏堂は解体されることとなり、明治13年（1880年）、山崎聖天に移築されて本堂、聖天堂、鐘楼として再利用されました。この移築によって、山崎聖天は新たな姿で復興を遂げたのです。

境内：歴史と文化の息吹

現在の境内には、禁門の変を生き抜いた土蔵をはじめ、多くの歴史的建造物が残されています。

本堂・聖天堂・鐘楼: これらはかつて西観音寺に存在した建物を移築したものです。鐘楼の梵鐘は、江戸幕府5代将軍徳川綱吉の母・桂昌院の寄進によるものです。
光明殿: 仁和寺の浴油堂を明治時代に移築した建物です。
薬師堂: 穏やかな雰囲気を醸し出す薬師如来を祀る堂宇です。
大燈籠: 元禄10年（1697年）、住友吉左衛門友信の寄進によるものです。住友家所有の別子[[銅山]]産の銅を使用していることから、当時の豪商の力の大きさを物語っています。
* 放生池、庫裏、仁王門、西門、稲荷社: これらの建物は、境内全体に歴史と信仰の深さを示す大切な要素となっています。

これらの建造物一つ一つに、山崎聖天の歴史と人々の信仰が刻まれています。

アクセスと周辺環境

JR西日本東海道線山崎駅、または阪急電鉄京都本線大山崎駅から徒歩12分とアクセスも良好です。周辺には天王山、妙喜庵、大山崎山荘美術館、大山崎町歴史資料館、大念寺、宝積寺、酒解神社、サントリー山崎蒸溜所など、歴史的・文化的観光地が数多く点在しています。

山崎聖天は、歴史と信仰、そして自然が織りなす、独特の魅力を持つ寺院です。訪れる人々に、静寂と安らぎ、そして歴史の重みを感じさせてくれるでしょう。

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