山嵐 (柔道)

山嵐（やまあらし）とは

山嵐は、柔道の投技における手技の一つであり、講道館や国際柔道連盟 (IJF) で正式に認められている技です。IJF略号はYAS。
古流柔術では山落（やまおとし）とも呼ばれていました。

概要

山嵐は、講道館柔道の創始者である嘉納治五郎の弟子、西郷四郎が得意とした技として知られています。西郷は柔術との試合で山嵐を使い勝利しました。

嘉納治五郎が学んだ天神真楊流にも「山落」という同様の技が存在していました。天神真楊流の井口義為の著書には「山嵐という名称は講道館で付けられたもので、揚心流、眞揚流、関口流では山落と呼ぶ」という記述があります。柔道家の溝口紀子も、西郷四郎の山嵐は古流柔術の真楊流、楊心流で「山落し」と呼ばれていた技を、嘉納治五郎が新たに「山嵐」と命名したものだと発表しています。

1920年（大正9年）に講道館の手技が整理された際、山嵐は一旦分類から除外され、「幻の技」となりました。しかし、1982年に講道館柔道の技名称投技が制定された際、山嵐は再び含まれることとなりました。

西郷四郎の山嵐は、嘉納治五郎をして「西郷の前に山嵐なく、西郷の後に山嵐なし」と言わしめるほどの技であったとされています。

「柔道の技名称」の正式名称は、その所作や動作を説明的に表現した形象的なものであるのに対し、山嵐は抽象的な名称で呼ばれる唯一の技です。

富田常雄の小説『姿三四郎』（1942年）では、西郷四郎をモデルにした主人公の三四郎が完成させた「必殺技」として山嵐が登場しました。

技の掛け方

山嵐は、片方の襟と袖を掴み、上半身は背負って前に投げる動作、下半身は後ろに足を払う動作を組み合わせた形で投げる技です（背負投と払腰の動作を同時に行うようなイメージ）。

担いで、斜め後腰に乗せ、脚を払うような形になるか、あるいは、外腹斜筋を伸ばすような感じで投げます。柔道家の溝口紀子は、背負落を変形させた投技で、背負落を踏ん張られた時に足を払うと自然と山落になると述べています。

右組みの場合の掛け方は以下の通りです。

1. 引き手は右袖を取り、釣り手は親指が下を向く方向で、親指以外の四指が外に出るようにして右襟を掴みます。
2. 背負投（もしくは体落とし）と払腰を合わせたような形で投げます。腰は、払腰のように右後腰を入れ、そこに相手を乗せます。
3. 相手の右脚を払うとき、右足の裏で払います。

山嵐は、背が低い者が高い相手を投げる際に有利であるとされています。西郷四郎の身長は五尺一寸（約153 cm）でした。

昔は、体落としのように掛けられており、相手が右脚を引いた時に、その脚に合わせるようにして掛けられていました。また、釣り手は親指が上でもよかったとされています。

近年では、阿部一二三選手が山嵐を決めましたが、体落としと判定されました。

四方投げ改良説

ライターの治郎丸明穂によると、ある大東流合気柔術の関係者は、西郷四郎の山嵐は大東流の四方投げを改良したものだという説を唱えています。

変化

背負投のように右組で右肘を相手の右腋下に入れながらの山嵐は、西郷四郎の山嵐とは異なりますが、背負投や払腰の理合いとも異なるため、山嵐に類する技とすることが1991年5月13日に講道館技研究部会で見解が統一されました。柔道家の醍醐敏郎はこのように述べています。

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