谷沢永一

谷沢永一：学問と批評の生涯

谷沢永一（たにざわ えいいち）は、1929年大阪に生まれ、2011年にその生涯を閉じた日本の国文学者、文芸評論家、書誌学者です。関西大学の名誉教授として、長年にわたり教鞭を執り、多くの研究者を育成しました。彼の専門は書誌学と日本近代文学であり、その知識の深さと批判精神は、文学界に大きな影響を与えました。

学歴と職歴

大阪市立大江小学校、旧制大阪府立天王寺中学校（現・大阪府立天王寺高等学校）を経て、1947年に関西大学予科に入学。1952年に同大学文学部国文学科を卒業後、1955年に文学部助手として大学に残り、1957年には大学院文学研究科博士課程の単位を取得しました。その後、1959年に専任講師、1962年に助教授、そして1968年に教授へと昇進し、1991年に依願退職するまで関西大学で教鞭を執りました。1972年には「日本近代文学評論史研究」で文学博士号を取得しています。

受賞歴

谷沢の業績は数々の賞によって認められています。1980年には書評コラムを集めた『完本 紙つぶて』でサントリー学芸賞を受賞。1989年には、明治・大正期の文芸評論史研究の功績により大阪市民表彰を受けました。さらに1997年には大阪文化賞を受賞しています。2004年には、森鷗外と坪内逍遥の論争を論じた『文豪たちの大喧嘩 鴎外・逍遥・樗牛』で読売文学賞研究・翻訳賞を受賞し、2006年には『紙つぶて 自作自注最終版』で毎日書評賞を受賞するなど、その幅広い活動が高く評価されています。

人物像

谷沢は、渡部昇一、開高健、藤本進治といった多くの文化人と親交がありました。また、紅野敏郎とは、個人的な交流はなかったものの、近代文学の研究者として「同志」と認め合う関係でした。兄貴分としては、朽木清（大阪市立大学教授）と藤本昭（神戸大学教授）の名を挙げています。

大学教授としての活動だけでなく、読売テレビの『おもしろサンデー』にコメンテーターとして出演するなど、メディアにも積極的に登場しました。番組で共演した桂文珍の才能に惚れ込み、関大文学部の非常勤講師に迎えたというエピソードも残っています。

批評と論争

谷沢は保守的な論客として知られ、数々の批判や論争を繰り広げました。特に思想家の吉本隆明との論争は有名で、呉智英からは「吉本の敗北が明白だった」と評されるほどでした。

『紙つぶて』では、大学の紀要の内容や教授、助教授の不勉強を具体的に批判しました。また、『こんな日本に誰がした』では大江健三郎を厳しく批判し、『悪魔の思想』では進歩的文化人12人を実名で批判しました。さらに『誰が国賊か』では、バブル経済崩壊の原因を官僚の行政指導にあると批判しています。

藤岡信勝とは犬猿の仲であり、新しい歴史教科書をつくる会の『新しい歴史教科書』に猛反発し、『「新しい歴史教科書」の絶版を勧告する』でその歴史認識を批判しました。

その他の活動

谷沢はフジサンケイグループの論客としても知られ、産経新聞大阪版でコラム「産経抄」を担当していました。多筆家でもあり、大学教授の合間に新聞、雑誌への投稿や著作の執筆を精力的に行っていました。

森銑三の井原西鶴に関する説を支持し、「井原西鶴の真の著書は『好色一代男』のみ」という主張を展開しました。自身は文学者ではなく、書誌学者という肩書を好んでいました。関西大学図書館には多くの蔵書を寄贈し、その一部は「谷澤永一コレクション」として貴重資料となっています。

著作

谷沢は、その生涯で数多くの著作を執筆しました。初期の著作には、『大正期の文藝評論』や『近代日本文学史の構想』があり、後年には、『文豪たちの大喧嘩 鴎外・逍遥・樗牛』、『紙つぶて 自作自注最終版』など、幅広いテーマで作品を発表しました。


谷沢永一は、その鋭い批評精神と深い知識で、日本の文学、文化、社会に大きな足跡を残しました。彼の著作は、今もなお多くの人々に読まれ、影響を与え続けています。

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