山本丈晴

作曲家、そしてギタリストとして多岐にわたる活動を展開した山本丈晴（やまもと たけはる）は、1925年5月22日に山梨県南都留郡河口村（現在の富士河口湖町）に生を受け、2011年9月7日に86歳でその生涯を閉じました。出生時の名は古屋 武治です。

音楽家を志した山本氏は、戦後日本の歌謡界を牽引した偉大な作曲家、古賀政男に師事し、ギター演奏と作曲法を深く学びました。特にその卓越したギター演奏によって、師が生み出した数々の「古賀メロディ」を世に広める上で重要な役割を果たしました。古賀氏と共に、戦後初のハワイ・北米演奏旅行（1950年）、さらにはブラジルやアルゼンチンを含む世界各地への演奏旅行（1951年）にも参加しています。

音楽活動を開始した当初は「古屋雅章」の筆名を用いましたが、やがて師である古賀政男の正式な養子となり、実名「武治」を「丈晴」と改めて「古賀丈晴」を名乗るようになりました。その後、キングレコードの専属作曲家時代（1958年-1962年）には再び「古屋丈晴」として活動するなど、その名義は変遷をたどります。

1962年、人生における大きな転機が訪れます。この年、第1回ミス日本に輝き「天下の美女」と称賛された女優の山本富士子との結婚でした。彼女の実家には跡を継ぐ男子がいなかったことから、丈晴氏は婿養子として山本家に入り、以降、山本姓を名乗るようになりました。結婚後、おしどり夫婦として知られ、1968年には愛息も誕生し、妻・富士子氏に先立たれることなく、丈晴氏自身の逝去まで添い遂げました。

その創作活動は多岐にわたり、美空ひばり、三橋美智也、春日八郎、村田英雄をはじめとする多くの歌手に楽曲を提供するなど、流行歌や歌謡曲、演歌の世界でヒットを生み出す一方、映画やテレビドラマ、舞台音楽、さらにはコマーシャルソング、社歌、校歌に至るまで、非常に幅広い分野で才能を発揮しました。また、ギタリストとしては、古賀政男の作品にギター伴奏で参加した初期の録音から、自身で「我が心ギターによせて」といったインストゥルメンタルアルバムシリーズを多数発表し、ギター音楽の普及にも尽力しました。

女優・山本富士子との出会いは、彼女がレコード録音のため古賀政男邸を訪れ、古賀門下の丈晴氏と知り合ったのがきっかけでした。特に、山本氏の楽曲「青春日記」のレコーディングでは、古賀政男と丈晴氏が共にギター伴奏を務めています。当時大スターだった山本富士子との結婚はマスコミに大きく取り上げられ、丈晴氏が追っかけを避けるために会社に身を隠すほどの騒動となりました。また、結婚前には肺結核を患っていましたが、手術の成功を条件に結婚を約束し、無事に成功したというエピソードも残されています。

1964年からは日本コロムビアの専属作曲家として活動し、1973年にはフリーとなります。その後、株式会社山本やビデオ制作会社の株式会社TVC山本を設立し、経営者としての顔も見せました。また、財団法人古賀政男音楽文化振興財団の理事長や終身名誉顧問を務め、師の功績を後世に伝える活動にも貢献しました。出身地の富士河口湖町からは特別町民に認定されるなど、故郷との繋がりも大切にしていました。長年の功績が認められ、2006年には第48回日本レコード大賞功労賞を受賞しています。

楽器にも造詣が深く、1970年代には「TAKEHARU GUITAR」という自身の名を冠したギターをプロデュースしました。また、琵琶の形にフレットをつけた独自の「琵琶ギター」を考案し、演奏アルバムも発表しています。ビウェラを使った演奏アルバムも制作しました。音楽に関する著書や教則本、自身の生涯を綴った書籍も複数出版しています。

多忙な活動の傍ら、テレビ番組にも多数出演。妻・山本富士子氏と共にトーク番組「丈晴・富士子のさわやかサロン」の司会を務めたほか、音楽番組のゲストや審査員としても活躍しました。特に、師である古賀政男の生涯を追ったNHKのドキュメンタリー番組では、インタビュー出演と共に音楽も担当しています。

2011年9月7日、肺炎のため東京都内の病院で静かに息を引き取りました。享年86歳でした。その墓所は東京都杉並区にある築地本願寺和田堀廟所にあります。

山本丈晴氏は、古賀政男の薫陶を受け、ギタリストとして、そして作曲家として、戦後日本の大衆音楽史に確かな足跡を残しました。その音楽は、時代を超えて多くの人々に親しまれています。

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