山本学治

山本学治：多角的な視点を持つ建築の巨匠

山本学治（1923年2月11日 - 1977年5月20日）は、日本の建築界において、他に類を見ないほど多様な分野で才能を発揮した人物です。建築学者、建築研究家、建築史家、建築構造学者、構造史家、建築教育者、そして建築評論家として、その名を知られています。

建築への多角的なアプローチ

山本学治の特筆すべき点は、構造工学から建築歴史学に至るまで、幅広い分野に精通していたことです。彼は、構造的な視点から建築を深く理解し、それに基づいて独自の建築批評を展開しました。その批評は、単なる形式やデザインの評価にとどまらず、素材、文化、技術など、多角的な視点から建築を捉えたものでした。

教育者としての貢献

長年にわたり、東京美術学校（現在の東京藝術大学）で教鞭を執り、多くの建築人材を育成しました。特に構造学の分野では、その知識と情熱を学生たちに伝え、後進の育成に大きく貢献しました。また、講座制移行後は建築史を担当し、歴史的な観点からも建築を深く理解させようと努めました。

建築批評家としての活動

建築雑誌『国際建築』の復刊に携わり、海外の著名な建築家や構造家を日本に紹介しました。特に、ミース・ファン・デル・ローエ、ロベール・マイヤール、オヴ・アラップ、ピエール・ルイージ・ネルヴィなどの作品を詳細に分析し、その構造的な特徴やデザイン哲学を日本の建築界に伝えました。また、近代建築を構造計画の視点から捉え、作家論、デザイン論、素材論、文化論、技術論など、多岐にわたる視点から鋭い批評を展開しました。

幅広い活動

山本学治は、教育者、批評家としての活動に加え、新建築家技術者集団（新建）の運営にも積極的に参画し、東京支部代表として「新建学校」を主宰しました。さらに、日本建築学会の編集委員や委員会委員、幹事なども歴任し、建築界の発展に大きく貢献しました。また、山岳スキーやフルートを趣味とするなど、多才な一面も持ち合わせていました。

作品と著作

山岳部山小屋である「黒沢ヒュッテ」の設計も手掛けました。また、多くの著書や論文を発表しており、それらは現代でも建築を学ぶ上で貴重な資料となっています。

• - 主な著書・論文

- 『山と雪の歌』（理論社、1955年）
- 『明日の構造理論 : 構造家とデザイナーの協力のために』（濱口隆一と共著、建築雑誌 65(762), 39-43, 1950-05-20）
- 『構造物の制振法に関する定性的研究（第一報）』（小野薫らと共著、大会学術講演梗概集. 計画系 22(1-1), 25, 1947-11-22）
- 『審査評（’76建築文化懸賞論文入選発表(課題＜風土と建築＞)）』（建築文化 (363), p79-80, 1977年1月号）
- 『大学および大学院での設計教育はどこまで可能か』（建築雑誌 91(1104), 186-187, 1976-03-20）
- 『折衷主義建築の評価と日本近代建築史』（建築雑誌 89(1084), 780, 1974-09-20）
- 『現代建築思潮に関する若干の考察』（建築雑誌 88(1070), 922-923, 1973-09-20）
- 『座談会・計画論：その論理と手法を求めて』（建築雑誌 88(1065), 449-458, 1973-05-20）
- 『人はその素材を何故とりあげるのか』（近代建築 27(3), 38-42, 1973-03）
- 『現代建築の「美」』（季刊科学と思想 (9), 50-57, 1973-07）
- 『新しい高層建築の形式』（SD (80), 17,20, 1971-05）
- 『交歓の触媒』（SD (83), 27-28, 1971-08）
- 『万博がわれわれにもたらしたもの』（建築雑誌 85(1030), 829, 1970-11-20）
- 『課題「郷土美術館」全国審査評』（建築雑誌 85(1026), 531-547, 1970-07-20）
- 『状況の全体的展望を』（建築雑誌 85(1022), 306-307, 1970-04-20）
- 『技術開発と技術者の倫理』（建築雑誌 84(1015), 627-629, 1969-10-20）
- 『ソビエト建築をどううけとめたか』（建築雑誌 84(1008), 274, 1969-04-20）
- 『建設システムとデザイン』（建築文化 (278), 71-82, 1969-12）
- 『個性的創造と普遍的創造 - 歴史的環境への適合 - ダラムの徒歩橋と無電塔』（建築文化 (276), 75-88, 1969-10）
- 『建築の現状と技術の評価』（建築文化 (267), 61-64, 1969-01）
- 『毛利君の建築 - とくに表現の独創性について』（建築 (104), 72-73, 1969-05）
- 『技術と造形』（建築 (100), 36-41, 1969-01）
- 『大阪万国博の意味するもの』（近代建築 23(12), 75-96, 1969-12）
- 『ミースの死を悼む』（近代建築 23(10), 86, 1969-10）
- 『まとめ：司会者グループ』（建築雑誌 83(1000), 578-587, 1968-08-20）
- 『座談会1』（建築雑誌 83(1000), 529-537, 1968-08-20）
- 『1000号記念の編集にあたって』（建築雑誌 83(1000), 527, 1968-08-20）
- 『豊かな可能性を秘めたシステム - 千葉県立中央図書館を見て』（新建築 43(10), 138-139, 1968-10）
- 『初心を表現した作品 - 東京経済大学図書館・研究室棟を見て』（新建築 43(8), 146-148, 1968-08）
- 『帝国ホテル旧館の保存について』（建築雑誌 82(988), 757-766, 1967-11-20）
- 『複合建築とは何か』（建築雑誌 82(984), 416-425, 1967-07-20）
- 『進歩と調和』（建築雑誌 82(980), 221-230, 1967-04-20）
- 『19世紀初めより1920年代に至る建築の近代化について』（東京芸術大学美術学部紀要 (1), 37-77, 1965-03）
- 『近代化の過程としての近代建築の史的構成に関する研究』（建築雑誌. 研究年報 62, 265, 1962-09-20）
- 『話題になった建築 東京タワー 大手町ビルディング 高速度道路 帝国ホテル 草月会館』（建築雑誌 73(865), 25-31, 1958-12-20）
- 『(建築教育に対する70氏の意見)』（建築雑誌 73(856), 26-27, 1958-03-20）
- 『20世紀のオフィスビルの発展について』（建築雑誌 72(849), 39-41, 1957-08-20）
- 『構造』（建築雑誌 71(833), 29-46, 1956-04-20）
- 『1930年代のソヴェト建築について』（日本建築學會研究報告 (26), 1, 1954-03）
- 『現代建築の課題』（美術批評 (32), 32-35, 1954-08）
- 『現代建築の技術的な問題』（美術手帖 (78), 53-56, 1954-02）
- 『1920年代のミース・フアン・デル・ローエ : 現代建築の成立について』（建築雑誌 67(788), 43-48, 1952-07-20）
- 『19世紀鉄骨建築の発展に関する若干の考察 : 構造の発展とデザインの分離について』（日本建築學會研究報告 (17), 681-684, 1952-03）
- 『近代構造技術の成立過程について』（日本建築學會研究報告 (1), 1949年）
- 『壁』空間概念としての壁：山本学治（新建築）
- 『歴史と風土の中で - 山本学治建築論集1』、『造型と構造と - 山本学治建築論集〈2〉』、『創造するこころ - 山本学治建築論集〈3〉』（鹿島出版会）
- 『素材と造形の歴史』（鹿島出版会）
- 『子どものための野外活動施設』（藤木忠善と共著、鹿島出版会、1978年）
- 『機能主義理論の系譜』（エドワード・R・デ・ザーコ著、稲葉武司と共訳、鹿島出版会、1972年）
- 『日本建築の現況―その系譜と60年代の展開』（編著、彰国社）
- 『日本における構造技術の近代化』（『新建築』6月）
- 『新阪急ビルの基礎工法』（新建築1962年1～6月号）
- 『近代・現代建築史書案内』（共著、彰国社）
- 『現代建築の12章』（SD選書、カーン ジョンソンほか、山本学治訳、鹿島出版会、1965年）
- 『建築批評の眼, 現代建築における論理の追求』（1974年）
- 『現代建築論 史論としての展開』（井上書院、1975年）
- 『巨匠ミースの遺産』（山本学治・稲葉武司共著、彰国社、1993年）

まとめ

山本学治は、その多岐にわたる活動を通じて、日本の建築界に大きな影響を与えました。彼の業績は、構造、歴史、批評、教育という幅広い分野にわたり、現代の建築を考える上で欠かせないものとなっています。その独自の視点と情熱は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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