山本行文

山本 行文（やまもと ゆきふみ）

山本行文氏は、1954年に熊本県で生まれた、日本の車いすアスリートの歴史において極めて重要な人物であり、その先駆者として知られています。現在、日本パラ陸上競技連盟の監事も務めています。

彼の人生は、21歳当時の大きな転機を経てスポーツへと向けられました。自衛隊員として任務にあたっていた際、採石場での作業中に土砂崩落事故に遭遇し、第一腰椎を圧迫骨折。これにより、車いすでの生活を余儀なくされました。

しかし、この困難が、新たな道を開くきっかけとなります。1981年に開催された「第1回大分国際車いすマラソン大会」を観戦し、競技としての車いすマラソンに強く心を惹かれ、すぐにその道を志しました。当時の日本では、車いすマラソンの本格的な練習方法や、競技に適したコース整備はまだ十分に進んでいませんでした。そのような環境の中、山本氏は創意工夫を凝らし、独自のトレーニング方法を編み出します。短い距離で効率的に走力を高めるため、古タイヤを牽引して毎日走り込みました。さらに、屋内でも練習できるよう、車いす用のルームランナーを自ら考案。これにより、長時間の走行に耐えうる強靭な体力を養いました。

こうした飽くなき努力は、すぐに結果として現れます。1982年の「第2回大分国際車いすマラソン大会」に出場し、総合9位、国内日本人選手としては2位という好成績を収めました。そして翌年の第3回大会からは、国内の第一人者として圧倒的な強さを見せ始めます。1983年から1989年にかけて、大分国際車いすマラソン大会において、国内選手として前人未踏の7連覇を達成しました。また、1983年から1992年シーズンにかけて、車いすマラソンの日本記録保持者であり続けました。

国際舞台においても、山本氏は輝かしい記録を残しました。1984年のニューヨーク・ストークマンデビルパラリンピック（ロサンゼルスオリンピック開催中に併催）を皮切りに、ソウル（1988年）、バルセロナ（1992年）と、計3回のパラリンピックに出場しています。

彼のキャリアの中でも特筆すべきは、二つの歴史的な記録達成です。

まず、1984年11月11日に大分国際車いすマラソンで記録した2時間00分47秒は、当時の男子マラソンにおける世界最高記録と日本最高記録をも上回るものでした。当時の世界記録は、スティーブ・ジョーンズ（英国）が前月のシカゴマラソンで樹立した2時間8分5秒、日本記録は、瀬古利彦氏が1983年2月に東京国際マラソンで記録した2時間8分38秒でした。山本氏は、人間の限界と思われていたタイムを、車いすランナーとして超越したのです。

さらに、1986年11月2日、再び大分国際車いすマラソンにおいて、1時間50分05秒という驚異的なタイムを叩き出し、日本人車いすランナーとして初めて「2時間の壁」を破る快挙を成し遂げました。

競技者として第一線を走り続けた山本氏ですが、過度な練習が原因で胸骨関節を損傷し、1992年のシーズンを最後に第一線の競技から退くこととなります。しかし、彼の車いすスポーツへの貢献は、現役引退後も続いています。

1998年に開催された長野パラリンピックでは、開会式の聖火リレーにおいて、競技場内の最終ランナーという大役を見事に務め上げ、その存在感を再び示しました。

現在は、ソーシャルワーカーとしての活動の傍ら、次世代を担う若手選手のコーチやアドバイザーとして経験を伝えるほか、全国各地での講演を通じて、スポーツを通じた社会福祉の向上や障害への理解促進に向けた啓発活動に精力的に取り組んでいます。

主なレース成績

1982年 第2回大分国際車いすマラソン（ハーフ） 総合9位 / 国内2位
1983年 第3回大分国際車いすマラソン 総合8位 / 国内1位
1984年 ニューヨーク・ストークマンデビルパラリンピック 車いすマラソン 7位（クラス5）
1984年 第4回大分国際車いすマラソン 総合5位 / 国内1位
1985年 第5回大分国際車いすマラソン 総合4位 / 国内1位
1986年 第6回大分国際車いすマラソン 総合4位 / 国内1位
1987年 第7回大分国際車いすマラソン 総合6位 / 国内1位
1988年 ソウルパラリンピック 車いすマラソン 4位入賞（クラス4）
1988年 第8回大分国際車いすマラソン 総合7位 / 国内1位
1988年 第1回全国車いすマラソン 優勝
1989年 第9回大分国際車いすマラソン 総合5位 / 国内1位
1990年 第10回大分国際車いすマラソン 総合16位 / 国内5位
1991年 第11回大分国際車いすマラソン 総合17位 / 国内3位
1992年 バルセロナパラリンピック 車いすマラソン 30位（TW3-4）
1992年 第12回大分国際車いすマラソン 総合5位 / 国内1位
1992年 第3回はまなす全国車いすマラソン 優勝

（文字数: 1275文字）

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