山茶碗

山茶碗について

山茶碗（やまぢゃわんまたはやまちゃわん）は、平安時代末（12世紀）から室町時代（15世紀）にかけて、日本の東海地方で生産された無釉の陶器です。この陶器は、灰釉陶器の伝統を受け継いでおり、特に美濃、尾張、三河、遠江などの窖窯で製造されました。

名称の由来

「山茶碗」という名称は、その製品が丘陵地の斜面など山の中で見つかるところに由来しています。この地で焼成されていた窖窯から採取されることが頻繁だったためです。また、山茶碗と共に見つかる小皿は「山皿」と呼ばれることがあります。他にも、奈良時代の僧・行基が各地を巡り、民衆に作陶技術を伝えたとの伝承から「行基焼（ぎょうきやき）」との別名もあります。

起源と生産地

山茶碗は、日本最古の人工施釉陶器である「灰釉陶器」の系譜に位置しており、愛知県名古屋市東部や豊田市を中心に分布する猿投窯（三大古窯の一つ）がその主な生産地です。灰釉陶器は、8世紀末から生産が始まり、当初は高級食器として精巧に作られていましたが、次第に多くの窯で焼かれるようになり、形状が粗雑化していきました。特に11世紀末からは、施釉技法が放棄され、量産化が進み、のちに山茶碗と呼ばれる製品が生み出されました。猿投窯の他にも、瀬戸窯、尾北窯、知多窯、渥美窯、美濃須衛窯や東濃窯など、様々な窯場で生産されています。

山茶碗の特徴

山茶碗は、一般的に釉薬を施さず、粗い粒子の胎土を持っており、灰色または黄灰色が主流です。淡い緑色の自然釉が施されることもあります。器種としては、碗、小皿、鉢、壺などがあり、特に碗と小皿の生産が多く見られます。これらの製品は、やや内湾して立ち上がる胴部を持ち、下に高台が付いています。焼成時に製品を重ねるため、下の層に癒着しないように籾殻を敷くことがあり、このため高台縁に籾殻の圧痕が残る製品もあります。

山茶碗は、12世紀から15世紀の約400年間にわたり生産され、当初は灰釉陶器の形態を引き継いでいましたが、時代とともに直線的な胴部の形状になり、小皿は扁平化し、多くの器種では高台が省略される傾向が見られます。

用途と流通

山茶碗の流通圏は、主に東海地方に限られていたため、庶民の日常雑器として利用されていたと考えられます。しかし、内面に摩滅した跡や「卸目」が見られるものもあり、食膳としてだけでなく、調理器具としても用いられていた可能性があると考えられています。山茶碗の独特なデザインと用途は、当時の人々の生活に密接に関連し、現在でも興味深い歴史的遺産として注目されています。

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