山風 (海風型駆逐艦)

山風 (初代)

大日本帝国海軍が運用した海風型駆逐艦の2番艦にあたるのが、本艦「山風（やまかぜ）」です。同名艦として白露型駆逐艦にも「山風」が存在するため、区別のために「山風 (初代)」あるいは「山風I」と呼ばれることもあります。海風型駆逐艦は、日本海軍の駆逐艦として初めて主機関に蒸気タービンを採用した点で、その後の艦艇技術に大きな影響を与えた画期的な存在でした。

建造から就役まで

本艦の計画時の仮称艦名は「甲号大駆逐艦」でした。建造契約は1909年（明治42年）8月28日に三菱合資会社との間で締結され、同年11月15日には正式に「山風」と命名されました。1910年（明治43年）6月1日、三菱長崎造船所にて船番209として起工。翌1911年（明治44年）1月21日に無事進水しました。この進水時には、極めて珍しい事例として、船体に菊の御紋章が取り付けられていたことが当時の写真で確認されています。これは完成時には撤去されましたが、日本海軍の駆逐艦としては唯一の事例として特筆されます。

公試運転では、計画出力を大きく上回る3万軸馬力、そして35.0ノットという高い速力を発揮したと記録されています。竣工は1911年10月21日で、同日付で駆逐艦として類別されました。さらに、1912年（大正元年）8月28日には日本海軍艦艇に等級が付与され、本艦は一等駆逐艦に分類されています。

皇室との関わり

山風は、その艦歴において二度にわたり皇室の利用に供される栄誉を得ました。

まず1915年（大正4年）3月、第16駆逐隊に所属していた山風（艦長：角田貫三中佐）は、姉妹艦の海風（艦長：小泉親治中佐）と共に沼津市沖に停泊しました。これは、当時14歳であった裕仁親王（後の昭和天皇）が沼津御用邸に滞在されていたためです。3月6日、親王は山風を御召駆逐艦とし（海風は供奉艦）、三保の松原へ行啓されました。翌7日には、駿河湾での遊覧や訓練が行われ、親王自らが魚雷発射訓練を試みられたと伝えられています。これらの任務を終えた山風と海風は、3月8日に横須賀へ帰港しました。

二度目は1920年（大正9年）3月、当時19歳の大正天皇皇太子であった裕仁親王の九州地方行啓の際です。親王は戦艦「香取」に乗艦されて神戸港を出発。山風と海風を含む多数の供奉艦隊がこれに同行しました。艦隊は鹿児島に到着し、以後も山風以下は皇太子を乗せた御召艦「香取」の九州各地への移動を護衛しています。

戦時・戦間期の活動

第一次世界大戦が勃発すると、山風は第一南遣支隊に編入され、ドイツ領であった南洋群島方面の攻略作戦に参加しました。大戦終結後、1918年（大正7年）のシベリア出兵においては、沿海州沿岸での警備活動に従事しました。

戦間期に入り、1926年（大正15年）11月29日には艦艇類別等級表に「艦型」が規定され、本艦は海風型に分類されました。同年12月1日から1928年12月10日までの期間は、鎮海要港部（現在の韓国鎮海）に所属し、主に朝鮮半島近海での任務にあたっています。

艦歴の終焉

時代が進み、艦艇の大型化・高性能化が進む中で、山風もその役割を変えることとなりました。1930年（昭和5年）6月1日、山風は駆逐艦籍から除かれ、掃海艇へと類別変更されました。同時にその名称も「第八号掃海艇」(二代)と改められています。掃海艇として数年間運用された後、1936年（昭和11年）4月1日をもって除籍され、本艦の艦歴は幕を閉じました。

初代「山風」は、日本海軍駆逐艦史におけるタービン機関導入の先駆けとして技術史的な意義を持つとともに、二度にわたる皇室の利用に供されるなど、その艦歴は多岐にわたるものでした。掃海艇への変更を経てその生涯を終えましたが、初期の帝国海軍駆逐艦の一隻として、その名は海軍史に刻まれています。

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