岡本久包

江戸時代中期の旗本、岡本久包（おかもと ひさかね）は、時の将軍に近侍する役職を歴任し、幕府内で確固たる地位を築いた人物です。

彼は、江戸城で馬医を務めていた桑嶋忠久の三男として生を受けました。生家は武士ではありましたが、馬医という立場でした。久包は、正徳元年（1711年）12月18日、時の将軍徳川家宣に仕えることになります。この時、彼は祖先の姓である岡本氏を名乗ることを許され、桑嶋家から独立した一つの家として立場を確立しました。最初の役職は表右筆（おもてゆうひつ）であり、幕府の公式文書の作成や記録などを担当しました。この職務に対し、禄米として百五十俵が支給されました。

岡本久包の出世は順調に進みました。正徳5年（1715年）4月30日には、表右筆から奥右筆（おくゆうひつ）へと昇進します。奥右筆は将軍の私的な文書や秘密性の高い記録を扱う、より将軍に近い重要な役職でした。同年12月18日には、それまでの百五十俵に加え、新たに五十俵の禄米が加増され、合計で二百俵となりました。さらに、享保16年（1731年）4月24日には、西の丸への勤仕（きんじ）、つまり将軍世子などが居住する西の丸に出仕する役目を命じられます。そして、享保19年（1734年）4月18日には、奥右筆の組織における責任者である奥右筆組頭にまで昇り詰めました。この一連の昇進は、幕府内における岡本久包の信頼と、その能力が高く評価されていたことを示しています。

しかし、順風満帆に見えたキャリアに一時的な影が差します。奥右筆組頭に就任したわずか半年後の享保19年（1734年）10月26日、彼は一つの手違いを犯してしまいます。田安館の火番に配置すべき人員が不足していたため、その補充を行うことになったのですが、すでに一名の登用が決まっていたにも関わらず、誤って重複してもう一名を採用してしまったのです。この人選における過失を咎められ、岡本久包は将軍への拝謁を停止されるという処分を受けました。

幸いにも、この謹慎期間は比較的短期間で済みました。およそ一ヵ月後の同年12月6日には、処分が解かれて赦免されます。さらにその12日後、12月18日には布衣（ほい）の着用を許されました。布衣は、もとは六位相当の位階を持つ者が着用を許される装束であり、武家においては将軍直属の家臣である旗本などが、その格式を示すために着用を許される名誉あるものでした。拝謁停止という失態からの早期の赦免と布衣の許可は、彼の能力やそれまでの功績が依然として高く評価されていたこと、あるいは過失が重大なものではなかったことを示唆しています。これにより、彼は再び旗本格としての地位と名誉を回復しました。

その後も岡本久包は幕府に仕え続け、寛保2年（1742年）7月9日には、御納戸役（おなんどやく）の頭（かしら）に昇進しました。御納戸役は、将軍の衣服や調度品、金銭などを管理する重要な役職であり、その責任者である頭は、さらに彼の地位を高めるものでした。

岡本久包は、延享3年（1746年）8月4日に62歳で生涯を終えました。その亡骸は、現在の東京都台東区にある浅草東國寺に葬られました。この寺は、以降、岡本久包の子孫にとって代々の菩提寺となったと伝えられています。

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