岡林信康自作自演コンサート 狂い咲き

『岡林信康自作自演コンサート 狂い咲き』は、日本のフォークシンガー、岡林信康が1971年7月28日に東京・日比谷野外音楽堂で行ったライブ「岡林信康 自作自演／30曲 狂い咲きコンサート」の模様を収めたライブアルバムです。このコンサートは、当時の彼が発表していた自作の楽曲（サードアルバム『俺ら いちぬけた』の発売前）を、作った時系列に沿って披露するというユニークな企画として実現しました。

コンサート開催のきっかけは、友人である黒田征太郎との酒席での会話でした。これまでに生み出してきた楽曲を、制作順に振り返るというアイデアが生まれ、その場の勢いで開催が決定。「くそくらえ節」に始まり、「私たちの望むものは」に至るまで、合計32曲の自作曲を歌い上げるという壮大な試みでした。しかし、この時期の岡林は過去の作品、特に「友よ」に対して複雑な心境を抱いており、本心では歌いたくなかったと後に述べています。また、アルバムには収録されている「ランブリングボーイ」などのカバー曲は、あくまで自作曲を網羅する企画であったため、セットリストには含まれませんでした。

この日比谷野音でのライブは、岡林信康が音楽活動からの引退を考えていた時期に行われました。このコンサートの後、岐阜県で開催された「第三回全日本フォークジャンボリー」への出演を最後に、彼は音楽シーンから一時的に姿を消し、山間部での隠遁生活に入ることになります。そうした背景もあり、この「狂い咲き」コンサートは、当時の活動の集大成であり、一つの区切りとなる特別な意味合いを持つステージでした。

コンサート当日に岡林が着用していた絞り染めの衣装は、彼の妻が手作りしたものです。ライブパフォーマンスには、柳田ヒログループが参加し、柳田ヒロ（ピアノ）、戸叶京介（ドラム）、高中正義（ベース）といった錚々たるミュージシャンが演奏を支えました。演奏後にはバンドメンバー紹介も行われ、ドラムの戸叶は体型から「サンダー杉山」というニックネームで紹介される一幕もありました。また、コンサートの後半には、企画のきっかけを作った黒田征太郎が壇上に上がり、観客に語りかける場面もありました。

披露された楽曲の中には、それぞれにエピソードが残されています。「友よ」を歌う際には、「問題の唄」と銘打って紹介し、客席からは「ナンセンス」や「異議なし！」といった声が飛び交うなど、聴衆との間で激しいやり取りが見られました。この曲は1973年の「年越しコンサート」でもファンからリクエストがありましたが、以降コンサートで歌われることは少なくなっていきます。また、「おまわりさんに捧げる唄」や「性と文化の革命」では、歌詞を間違えてしまう場面もあったことが記録されています。

このライブの模様を収録したアルバムは、最初にURCレコードからリリースされました。その後、1992年の初CD化に際して、「くそくらえ節」の一部と「ヘライデ」がマスターテープの欠損などの理由でカットされていましたが、2008年に紙ジャケット仕様で再発された際に、これらの部分も復刻され、よりオリジナルの形に近い形で聴けるようになりました。

また、URC版とは別に、このコンサートの音源から12曲を抜粋した『岡林信康オンステージ 日比谷大音楽堂”狂い咲きコンサート・ライブ”』が、1972年3月にビクターレコードから発売されています。こちらはURC版とは収録曲が異なり、「山谷ブルース」「流れ者」「チューリップのアップリケ」「君を待っている」「コペルニクス的転回のすすめ」「絶望的前衛」「ゆきどまりのどっちらけ」「俺らいちぬけた」「仲のいい二人」「家は出たけれど」「申し訳ないが気分がいい」「私たちの望むものは」が収録されました。

このアルバムに収められた「狂い咲き」コンサートは、当時の日本のフォーク・ムーブメントを牽引した岡林信康の、キャリア初期から中期にかけての楽曲と、その時代の熱気を伝える貴重な記録であり、彼の音楽を語る上で欠かせない作品となっています。

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