岡林直之

岡林直之：赤穂藩の組頭、そして悲劇的な最期

岡林直之は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した武士です。播磨国赤穂藩に仕え、通称は杢之助。数奇な運命を辿り、赤穂事件においては複雑な立場に置かれ、その生涯は悲劇的な幕切れを迎えます。

名門旗本家の出自と赤穂藩への道

1000石取りの旗本、松平忠治の四男として生まれた直之。この松平家は、遠江国浜松藩主である松平忠頼の系統から分かれた名門でした。しかし、忠治の跡継ぎには兄がいたため、直之は赤穂浅野家家臣の岡林直宗の養子となりました。岡林家は赤穂藩内で大石家に次ぐ名門であり、養父直宗の娘は浅野家の分家旗本の養女となり、旗本戸田家へと嫁ぐなど、その影響力は大きかったのです。

養父の後を継いだ直之は、才能を発揮し、めきめきと出世しました。浅野長矩の刃傷事件の際には、家老に次ぐ地位である組頭を務めるまで登り詰めていました。

赤穂城での決断と開城派

浅野家改易後、赤穂城では藩の行く末を巡って激しい論争が巻き起こりました。この時、直之は末席家老の大野知房と共に開城を主張する立場をとりました。これは、大石良雄らによる篭城・討死を主張する勢力とは対立するものでした。最終的には開城という結論に至りますが、『赤城盟伝』では、直之は開城派の玉虫七郎右衛門と共に「臆病」と評されています。

しかし、開城後も直之は赤穂にとどまり、収城使らの対応など、赤穂藩士としての職務を全うしました。大石らとは接触せず、開城後すぐに江戸の実家へと戻りました。

兄からの責めと強制的な殉死

元禄15年（1702年）12月14日、大石良雄らによる吉良邸討ち入りが実行されます。この義挙に、1000石取りの重臣であった直之が加わらなかったことに、兄の忠郷は激怒しました。「桜井松平家の恥さらし」と直之を罵り、弟の介錯によって直之を強制的に殉死切腹させたのです。享年わずか24歳でした。この事件は「直之の乱心」として処理されたと伝えられています。

大石良雄が送った書状には、直之の自害の知らせが記されており、良雄自身もその報を聞いていたことが分かります。興味深いのは、直之の組には、後に吉良邸討ち入りで活躍する早水満尭、間光延、千馬光忠らがいたということです。

複雑な立場と評価

岡林直之の生涯は、名門旗本家の出自、赤穂藩での出世、そして赤穂事件における開城派としての立場、そして最後は兄による強制的な殉死と、多くの複雑な要素が絡み合っています。彼が臆病であったのか、それとも別の事情があったのか、その真意は定かではありません。様々な史料から、多角的にその人物像を考察していく必要があります。彼の行動は、現代においても様々な解釈がなされ、議論を呼ぶものとなっているのです。

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