間光延

間光延：赤穂浪士の知られざる足跡

間光延（はざま みつのぶ）は、江戸時代前期に活躍した武士であり、赤穂浪士四十七士の一人として名高い人物です。寛永12年（1635年）の生まれで、通称は喜兵衛。赤穂藩では勝手方吟味役を務め、100石の禄高を得ていました。

光延は武芸にも秀でており、父から天流剣術を伝授されたほか、複数の剣術流派の系譜をまとめた『剣術系図』を著すなど、剣術への深い造詣を持っていました。

元禄14年（1701年）、主君・浅野長矩が吉良義央に刃傷に及んだ事件は、光延の人生を大きく変えました。浅野長矩の切腹と赤穂藩の改易という事態を受け、光延は赤穂に留まり、長男の光興と共に大石良雄の義盟に加わります。後に、事情により江戸へ出奔していた次男の光風も義盟に加勢しました。

元禄15年（1702年）、光延は原元辰らと共に江戸へ下向。杣庄喜斎と名を変え、光興、光風と共に新麹町の借家に潜伏し、吉良邸討ち入りへの準備を進めました。

そして、元禄15年12月14日、ついに吉良邸討ち入りが実行されます。光延は裏門隊に属し、吉田兼亮、小野寺秀和と共に大石良金の警護にあたりました。裏門司令部の防衛を担い、槍には「都鳥いざ言とはん武士の恥ある世とは知るや知らずや」と記した短冊を付け、老齢ながら敵兵の一人である牧野春斎を討ち取る活躍を見せました。

討ち入り後、光延は細川綱利屋敷に預けられます。家族は、長男の光興が水野家、次男の光風は毛利家にそれぞれ預けられることとなり、一家は離れ離れとなりました。

元禄16年（1703年）2月3日、江戸幕府の命により、光延は切腹しました。細川家は、切腹の際に二寸近く刃渡りの長い小脇差を用意したと伝えられています。いくつかの記録には、大石良雄以下、介錯の失敗例が複数記されていることから、当時の緊迫した状況がうかがえます。光延の辞世の句は「草枕むすぶ仮ねの夢さめて　常夜にかえる春のあけぼの」でした。享年69。戒名は刃泉如劔信士。泉岳寺に葬られました。

光延の遺品である槍「無銘」と脇差「輝広 二尺一寸」は、細川家が家宝として伝えていましたが、後に細川重賢によって処分され、散逸してしまいました。

細川家の接判役を務めた堀内重勝の覚書によると、光延は寡黙で物静かな性格だったとされています。常に黙って座り、周囲の人々との交流は少なかったようです。

光延の邸宅跡は、赤穂市上仮屋北にありました。明治中期には濱尾家住宅が建てられ、その建物は1998年に赤穂市の市街地景観重要建築物に指定されています。現在では、濱尾家の子孫によってリノベーションされ、母屋の一部は貸しスペースとして活用され、蔵はカフェとして営業しています。

間光延は、赤穂浪士四十七士の中でも、比較的知られていない人物の一人かもしれません。しかし、彼の生涯は、武士としての誇り、そして義に生きた人生を物語っています。剣術の達人であり、吉良邸討ち入りにおいても重要な役割を担った光延の生き様は、後世に語り継がれるべきものです。彼の静かな佇まいと、その裏に秘められた強い意志は、今もなお人々の心に深く刻まれています。

もう一度検索