岡邦雄

岡邦雄とは

岡邦雄（1890年1月15日 - 1971年5月22日）は、日本の著名な科学史家であり、思想家です。山形県米沢市に生まれ、後の東京理科大学である東京物理学校で学びました。卒業後、教育者としての道を歩み始め、1924年には旧制第一高等学校（現在の東京大学教養学部）の助教授に就任しました。また、文化学院大学部の設立にも協力し、教鞭をとるなど、教育界における活動も積極的に行いました。

思想と活動

岡邦雄の生涯は、思想的な探求と社会的な活動によって特徴づけられます。彼は唯物論に関心を寄せ、その研究と普及に努めました。1932年には、共産主義思想に関連する活動を行っていたことを理由に、第一高等学校を解雇されるという事態に直面します。同年、彼は哲学者である戸坂潤らとともに、唯物論研究会の創立に参画し、日本の思想界において唯物論の立場から発言力を持ちました。この研究会は、当時の日本の思想状況に大きな影響を与えました。

私生活と波紋

思想家、教育者としての顔を持つ一方で、岡邦雄の私生活は世間の注目を集める出来事も経験しています。1936年には、既婚者でありながら、年下のロシア語翻訳者であった桝本セツとの関係が報じられ、大きな波紋を呼びました。糟糠の妻と6人の子供がありながらの恋愛は、当時の社会規範から大きく外れるものと見なされ、新聞などでは、彼自身が唱えていた「新しきモラル」の実践であるかと皮肉をもって報じられました。この出来事は、公的な立場にある人物の倫理観について、社会に問いを投げかけるものでした。

逮捕と出所、戦後の活動

思想統制が強まる戦時下の日本では、岡邦雄のような思想家への弾圧も避けられませんでした。1938年、彼は治安維持法違反の容疑で身柄を拘束され、投獄されます。厳しい時代を経て、太平洋戦争終結後の1945年10月9日、彼は第二次世界大戦の終結に伴う政治犯の一斉釈放により、宮城刑務所から出所することができました。戦後の日本において、彼は再び教育と研究の分野に戻り、鎌倉アカデミアで教壇に立ちました。また、戦後日本の経済復興や産業技術のあり方を巡る「技術論論争」においては、重要な論客の一人として知られています。

政治活動と晩年

出所後、岡邦雄は政治への関与も見せます。1947年の第1回参議院議員通常選挙には、日本共産党公認候補として全国区から立候補しましたが、残念ながら当選には至りませんでした。彼の活動は、科学史、哲学、社会批評、教育と多岐にわたっており、その生涯を通じて日本の近代思想史に足跡を残しました。息子である桝本純氏は、後に日本労働組合総連合会の社会政策局長を務めています。岡邦雄は1971年5月22日にその生涯を閉じましたが、その著作や活動は、今日でも日本の科学史や思想史を理解する上で重要な資料となっています。

主な著作活動

岡邦雄は、科学史、自然科学、哲学、社会問題、教育など、幅広い分野で数多くの著作を発表しました。初期には『物理学読本』や『相対性原理読本』といった自然科学の解説書を手がけ、唯物論研究会に参加後は『唯物論と自然科学』や共編著『自然弁証法』など、唯物論の立場から科学や哲学を論じる著作を多く発表しました。また、大著『自然科学史』は、その後の日本の科学史研究に大きな影響を与えた著作の一つです。その他にも、著名な科学者の伝記、教育に関するもの、文芸評論など、多岐にわたるテーマで旺盛な執筆活動を展開しました。彼の著作は、難解な科学や哲学の概念を分かりやすく解説しようとする姿勢が見られ、広い読者層に影響を与えました。また、海外の重要な著作の翻訳も数多く手がけ、科学や思想に関する海外の知見を日本に紹介する役割も担いました。ガリレイの『力学対話』やニュートンの『プリンシピア』といった古典の翻訳から、ダーウィンの『人間の由来』、ファラデーの『ろうそくの語る科学』まで、その翻訳対象は多岐にわたります。

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