岩下俊作

岩下俊作は、1906年に福岡県小倉市（現在の北九州市小倉北区）で生まれ、1980年に73歳で亡くなった小説家です。本名を八田秀吉といい、旧福岡県立小倉工業学校（現在の福岡県立小倉工業高等学校）機械科を卒業後、1928年から1961年まで八幡製鉄所に勤務していました。

作家としての活動は、1938年に同郷の作家である火野葦平や劉寒吉らとともに同人誌「九州文学（第二期）」に参加したことから本格化します。ここで発表された『富島松五郎伝』は、1939年下半期と1940年上半期の直木賞候補に選ばれましたが、受賞には至りませんでした。その後も『辰次と由松』や『西域記』が直木賞候補となりましたが、いずれも受賞はなりませんでした。八幡製鉄所を退職した後は、明治通信社に勤務しながら執筆活動を続けました。

岩下の代表作として知られる『富島松五郎伝』は、後に『無法松の一生』と改題され、映画、テレビドラマ、舞台と幾度も映像化・舞台化されています。この作品は、人間味あふれる主人公の生き様を描いた物語として広く知られ、時代を超えて愛されています。

岩下の作品は、彼の生きた時代や、製鉄所勤務の経験が色濃く反映されており、力強い筆致と人間描写が特徴です。また、シルクロードを題材にした『西域記』や、数学（和算）を扱った『算額問答』など、時代を先取りしたテーマにも挑戦していました。

彼の著書には、『辰次と由松』『秋廓寥』『熱風』『熔鉱炉と共に四十年』『明治 恋風』『縄』『焔と氷 明治密偵風雲録』『青春の流域』などがあります。また、詩集も発表しており、多才な一面をうかがい知ることができます。作品集としては、『岩下俊作選集』全5巻や、『くらしっく時代小説9 岩下俊作集』などが刊行されています。

岩下の家族としては、長男の八田敏弘が元小倉北区長、三男の八田昂がNHK記者として活躍した後、NHK北九州局長を務めたことが知られています。特に三男の八田昂は、その後NHK文化センターに移り、北九州教室の開設に尽力するなど、地域文化の発展に貢献しました。

岩下俊作は、その生涯を通じて、日本の文学界に独自の足跡を残した作家です。彼の作品は、今もなお、多くの人々に読み継がれています。

主な作品リスト：
辰次と由松（新小説社）1941年
富島松五郎伝（小山書店）1941年
秋廓寥（泰光堂）1942年
熱風（土人社）1943年
熔鉱炉と共に四十年（東洋書館）1943年
無法松の一生（啓示社）1949年
明治 恋風（角川書店）1950年
縄（五月書房）1958年
焔と氷 明治密偵風雲録（五月書房）1959年
青春の流域（五月書房）1959年
* 岩下俊作詩集（小壼天書房）1960年

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