九州文学

九州文学



『九州文学』は、1937年（昭和12年）に創刊された日本の地方文芸雑誌です。創刊当初は九州の文学者たちの同人誌として始まりましたが、後に数多くの芥川賞・直木賞候補作家を輩出し、日本文学界にその名を刻みました。2021年現在は第8期が刊行されており、年4回の季刊誌として発行されています。発行団体は九州文学同人会で、編集発行所は福岡県久留米市にあります。

起源



『九州文学』の起源は、1936年（昭和11年）にドイツ文学者の秋山六郎兵衛が、旧制福岡高等学校の同僚である浦瀬白雨・大塚幸男らと創刊した文芸同人誌「九州文壇」に遡ります。この「九州文壇」を母体として、1937年（昭和12年）に『九州文学』（第1期）が創刊されました。

その後、1938年（昭和13年）には、火野葦平、劉寒吉、岩下俊作、原田種夫ら、福岡県北九州地方を中心に活動する作家たちが合流し、「九州芸術」「文学会議」「とらんしっと」などの同人誌と合同して『九州文学』（第2期）となりました。一般的に『九州文学』と呼ばれる場合は、この第2期を指すことが多いです。

芥川賞・直木賞候補作を多数輩出



『九州文学』は、地方の同人誌でありながら、掲載作品や執筆陣から多数の芥川賞・直木賞候補者と受賞者を輩出しました。特に、創刊時メンバーの中心人物である火野葦平は、『九州文学』第2期参加直前の1937年（昭和12年）に日中戦争に応召し、出征前に書いた『糞尿譚』で翌年に第6回芥川賞を受賞しました。戦地で行われた授賞式には、小林秀雄が日本から訪れたというエピソードも残っています。

岩下俊作も代表作である『富島松五郎伝』で1939年下半期・第10回直木賞候補に、その後も「辰次と由松」、「西域記」で直木賞候補に選出されました。劉寒吉も「人間競争」「翁」「十時大尉」「古戦場」「風雪」で芥川賞・直木賞の候補に何度も選ばれています。原田種夫も「風塵」「家系」「南蛮絵師」「竹槍騒動異聞」で芥川賞・直木賞候補となっています。

「まぼろしの邪馬台国」連載と出版



1965年（昭和40年）からは、宮崎康平の『まぼろしの邪馬台国』が『九州文学』に連載されました。この作品は、1967年（昭和42年）に講談社から出版され、宮崎は夫婦で第1回吉川英治文化賞を受賞しました。この作品をきっかけに、一般人の間でも邪馬台国論争が巻き起こり、大きな話題となりました。

『九州文学』同人会は当初「まぼろしの邪馬台国」を文学作品とは見なさず、連載を拒否する姿勢でしたが、劉寒吉のとりなしによって連載が実現しました。

現在



『九州文学』は、地方文芸誌としての特性から、購読者に地域的な偏りが見られます。特に、火野、岩下、劉の出身地であり、創刊の地でもある福岡県北九州市を中心に読まれています。

第2期は1983年（昭和58年）に一旦休刊しましたが、その後も執筆陣や発行者を変更しながら発行を続けています。福岡県内をはじめとする九州・山口の各県では、新刊書店での商業流通も行われており、一般読者も購入可能です。2010年（平成22年）には、第4回富士正晴全国同人雑誌賞大賞を受賞しました。

2015年（平成27年）からは、安川電機株式会社と共同で「安川電機九州文学賞」を創設し、新人作家の発掘にも力を入れています。2020年7月からは、中村弘行が代表・編集発行人となり、第8期が発足しました。

年譜



  • - 1936年3月：秋山六郎兵衛が同人誌『九州文壇』を創刊。
  • - 1937年：『九州文壇』廃刊、『九州文学』（第1期）創刊。
  • - 1938年：『九州芸術』『文学会議』『とらんしっと』など他の同人誌と合同、『九州文学』（第2期）となる。
  • - 1983年12月：『九州文学』（第5期）が第464号で休刊。
  • - 1994年：高尾稔が復刊（第6期、- 第522号）。
  • - 2008年4月：波佐間義之が引き継ぎ、第7期に移行（第523号 - 第573号）。
  • - 2020年7月：中村弘行が引き継ぎ、第8期に移行（第574号 - ）。

関連書籍・書誌情報



《岩下俊作・直木賞候補作品》



  • - 第10回「富島松五郎伝」（「九州文学」1939年（昭和14年）10月号）単行本初所収・小山書店刊「富島松五郎伝」
  • - 第12回「辰次と由松」（「オール讀物」1940年（昭和15年）9月号）単行本初所収・新小説社刊「辰次と由松」
  • - 第13回「諦めとは言へど」（「オール讀物」1941年（昭和16年）6月号）単行本初所収・新小説社刊「辰次と由松」
  • - 第17回「西域記」（「九州文学」1940年9月号 - 1946年9月号・連載中に候補となる）

《宮崎康平》




参考文献・出典



  • - 芥川賞のすべて・のようなもの（候補作・受賞作一覧リスト）
  • - 直木賞のすべて（候補作・受賞作一覧リスト）
  • - 西日本シティ銀行「九州文学を支えた群像」（対談：平成10年9月、司会・構成：土居善胤）
  • - 火野葦平・岩下俊作・劉寒吉展「生誕100年記念火野葦平・岩下俊作・劉寒吉展」 北九州市文学館 2006年11月
  • - 原田種夫「記録九州文学」（創作篇）梓書院　1974年（昭和49年）12月
  • - 原田種夫著　志村有弘編「九州文壇日記」叢文社　1991年（平成3年）2月
  • - 火野葦平II「九州文学の仲間たち」葦平と河拍洞の会編　花書院　2005年（平成17年）6月
  • - 第七期「九州文学」1号（通巻523号）波佐間義之編「第七期『九州文學』までの道程」2008年（平成20年）4月
  • - 志村有弘編「福岡県文学事典」勉誠出版　2010年（平成22年）10月

関連項目



  • - 火野葦平
  • - 岩下俊作
  • - 劉寒吉
  • - 原田種夫
  • - 長井魁一郎

外部リンク



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