岩井半四郎 (8代目)

八代目岩井半四郎：幕末から明治を彩った名女形

八代目岩井半四郎（1829年10月29日-1882年2月19日）は、幕末から明治時代にかけて活躍した歌舞伎役者です。幼名久次郎。屋号は大和屋、定紋は丸に三つ扇、俳名に燕子・紫若・杜若・紫童・梅我、雅号に八橘舎を持ち、紫童半四郎とも呼ばれていました。

七代目岩井半四郎を父、四代目瀬川菊之丞の次女きいを母に持ち、幼少期から久次郎の名で舞台に立っていました。本格的な初舞台は天保3年（1832年）、江戸中村座での「碁盤忠信雪白黒」で三代目岩井粂三郎を名乗り、門院侍女小侍従を演じました。祖父である五代目岩井半四郎（当時、岩井杜若）や父と同じ舞台に立ち、役者としての基礎をしっかりと築き上げていきます。その後、父と祖父を相次いで亡くすという不幸に見舞われますが、20歳頃には若手のホープとして頭角を現し始めます。文久3年（1863年）2月には父の前名を襲名し、二代目岩井紫若を名乗りました。

幕末には八代目市川團十郎や四代目市川小團次と、明治時代には九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎と共演し、第一線で活躍しました。特に、二代目河竹新七（後の河竹黙阿弥）の作品初演に数多く携わり、数々の名演を残しています。『三人吉三廓初買』のお嬢吉三、『小袖曽我薊色縫』の遊女十六夜のちおさよ、『八幡祭小望月賑』のおみよ、『青砥稿花紅彩画』の赤星十三といった幕末期の代表作から、『梅雨小袖昔八丈』のお熊、『天衣紛上野初花』の大口屋三千歳、『島鵆月白浪』の弁天お照といった明治期の作品まで、幅広い役柄を演じきり、後世の女形役者たちに大きな影響を与えました。

明治5年（1872年）2月には、江戸歌舞伎の大名跡である八代目岩井半四郎を襲名。明治6年（1873年）には中村座の座頭にも就任しました。

八代目岩井半四郎は、類まれな美貌と繊細な演技で知られる女形として広く人気を博しました。その人気は、舞台姿の美しさだけにとどまりません。普段から非常に控えめで、女性のような生活を送っていたことでも有名でした。これは、江戸歌舞伎の伝統を色濃く残す女形役者としての生き方だったと言えるでしょう。

控えめで女性的な生活

狂言作者の竹柴其水の証言によると、半四郎は自宅にこもりがちな性格で、女性のような所作や振る舞い、そして生活様式を送っていたと記されています。茶室で正座するようなことはなく、自分の部屋で静かに過ごしていたとのこと。服装も地味な着物に伊達巻、裾を引摺る姿はまさに女性そのものでした。来客に対しても、丁寧で品格ある対応をしていたと伝えられています。部屋には人形や針箱など、女性らしい品々が置かれ、千代紙細工や人形の着物の縫製を趣味にしていたそうです。楽屋入りする際には、模様物の着物に着替え、左手に褄をとって歩く姿も女性そのものだったと言われています。

名優たちの称賛

共演者たちも、半四郎の演技を絶賛していました。名優と謳われた四代目市川小團次は、『十六夜清心』で半四郎が演じた十六夜役の妖艶さに、「あれじゃあ、寺を開いたって構やしねえ」と感嘆の声を上げたと言われています。また、九代目市川團十郎は半四郎の死後、『鳴神』で半四郎しか演じることができない雲の絶間姫役がいなくなり、上演できなくなったことを嘆いたそうです。

八代目岩井半四郎は、その卓越した演技力と、女性のような繊細な感性、そして控えめな人となりで、多くの観客を魅了し、歌舞伎史に大きな足跡を残した名優でした。その名声は、後世の役者たちにも受け継がれ、今もなお語り継がれています。

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