岩本徹三

零戦撃墜王　岩本徹三：生涯と戦功

岩本徹三は、1916年、樺太の警察官の家庭に生まれました。幼少期は北海道札幌市、その後島根県益田と転居を重ね、益田農林学校を卒業。 勉学よりも体を動かすことを好み、漁師の手伝いをしたり、魚突きが得意な活発な少年でした。しかし、一本気な正義感も持ち合わせており、教師を困らせることも少なくなかったようです。

父親の反対を押し切り、1935年、海軍の志願兵試験に合格。航空科を選び、呉海兵団に入団します。「お国のために命を捧げます」と両親に告げた彼の決意は、後の彼の生涯を決定付けるものとなりました。

霞ヶ浦海軍航空隊で整備員として勤務後、操縦員に転身。抜群の射撃の腕前と、自習に励む真面目さで、操縦技術を磨いていきました。1937年、支那事変が勃発。1938年2月、第十三航空隊に配属され、南京に赴任します。

同年2月25日、南昌空襲で初陣を迎えます。この戦闘で岩本は、I-15 4機、I-16 1機を撃墜する好成績を収め、その名を広く知らしめることとなります。支那事変における岩本の撃墜数は、半年で14機に達しました。その後も数々の戦果を上げ、金鵄勲章を受章する栄誉に浴します。

1941年12月、太平洋戦争開戦。岩本は空母「瑞鶴」の戦闘機隊員として真珠湾攻撃に参加。艦隊上空の直衛任務に就き、戦闘には参加しませんでしたが、その後、インド洋作戦や珊瑚海海戦などに参加し、戦闘機パイロットとしての高い技量を発揮します。珊瑚海海戦では、米軍機の攻撃を巧みにかわし、母艦「瑞鶴」を護衛。 この戦闘での活躍は、艦長と飛行長から高く評価されましたが、味方の多くの搭乗員を失った事実は、彼に深い悲しみをもたらしました。

1943年3月、岩本は281空に配属され、その後、戦闘機乗りの墓場と呼ばれたラバウルへ派遣されます。ラバウルでの彼の活躍は凄まじく、多くの敵機を撃墜。その卓越した戦術と、地上部隊との連携により、日本軍の戦果に大きく貢献しました。特に「送り狼」戦法と呼ばれる、敵機の帰還路を待ち伏せ攻撃する戦法を得意としていました。また、独自に開発した、三号爆弾を用いた対編隊爆撃は、多くの敵機を一度に撃墜する戦果を生み出しました。その戦法は、高度な操縦技術と熟練した射撃能力を必要とするものでしたが、岩本はそれを完璧にこなしていたのです。当時、彼の搭乗する零戦には、多数の撃墜数を示す桜のマークが描かれており、敵にも恐怖を与えていました。

1944年、トラック島へ移動した後、内地へ帰還。サイパンの戦いの勃発により、トラック島への復帰は断念し、その後も各地の航空隊を転戦。終戦を迎えます。

終戦後、岩本はGHQから尋問を受けますが、戦犯には問われず、公職追放となりました。彼は日本開拓公社に入社しますが、1年半で心臓を病み帰郷。戦後の生活は苦しく、アルコールに依存する時期もありました。それでも、近所の人々を助け、子供たちのために玩具を手作りするなど、温かい一面も持ち合わせていました。1955年、38歳の若さでこの世を去ります。

岩本徹三は、卓越した戦闘機パイロットとして数々の戦果を上げ、後世に語り継がれる存在となりました。彼が残した回想録は、太平洋戦争における日本海軍の戦闘のリアルな姿を伝える貴重な資料となっています。彼の生き様は、戦争の残酷さとともに、人間としての強さと優しさを私たちに示唆していると言えるでしょう。

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