岸辺露伴 ルーヴルへ行く

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、荒木飛呂彦によるフルカラー漫画作品。ルーヴル美術館とフュチュロポリス社が共同で行ったBD（バンド・デシネ）プロジェクトの一環として、2009年に発表されました。2023年には実写映画化もされ、大きな話題を呼びました。

概要

この作品は、26×18.6センチの愛蔵版サイズで、全123ページのフルカラー作品です。荒木飛呂彦にとって初のフルカラー漫画作品であり、その美しい色彩が特徴です。荒木は、BDプロジェクトの他の作品が全てフルカラーであったことと、めったにない機会であることからフルカラーに挑戦したと語っています。

物語は、日本を舞台にした前篇、パリを舞台にした中篇、ルーヴル美術館地下を舞台にした後篇の3部構成で、それぞれの舞台に合わせて色調が変化します。前篇はセピア調、中篇はピンク調、後篇はブルー調で描かれ、視覚的に物語を盛り上げます。荒木は、読者が色彩に飽きないように、エンキ・ビラルやニコラ・ド・クレシーなどの作品を参考に、フルカラー用の色彩感覚を学んだと述べています。

主人公は、短編作品集『岸辺露伴は動かない』でもお馴染みの漫画家・岸辺露伴。荒木は、新しいキャラクターを登場させると紹介に多くのページを費やす必要があるため、読者が既に知っている露伴を主人公に選んだと語っています。巻末には、「ARAKI HIROHIKO Meets MUSÉE DU LOUVRE」として、BDプロジェクトの解説やフランス取材記が収録されています。

制作背景

ルーヴル美術館は、BDプロジェクトにおいて「ルーヴル美術館を題材に、オリジナルの作品を制作すること」という条件で作品を募集しました。出版部副部長のファブリス・ドゥアールは、日本の漫画家の参加を希望していました。荒木への依頼は、荒木が2007年に開催された『オルセー美術館展／19世紀 芸術家たちの楽園』の手伝いで、三菱一号館美術館初代館長の高橋明也と対談したことがきっかけです。新聞社を通じてルーヴルからオファーが舞い込み、荒木はこれを快諾しました。

ルーヴル側からは、「取材や資料提供などの協力は惜しまないので、あとはイマジネーションの赴くままに物語を描いて欲しい」というシンプルな条件が提示されました。避けるべき描写に関する質問にも「特に無し。物語のテーマに共感し、必要と感じる描写であれば、禁止する理由はない」という回答がなされました。荒木は、月刊連載のかたわら、物語の構想を練り始めました。

2008年秋、荒木は取材のために5年ぶりにパリを訪れ、ルーヴル美術館を訪れました。取材は2日間に及び、初日は普段は入れない地下や屋根裏などに特別に立ち入りが許可され、2日目は休館日であったため、貸し切り状態で内部を取材することができました。この時の地下倉庫の取材が、作品に活かされています。また、フュチュロポリス社と、ページ数や本の形態などの打ち合わせも行われました。

ルーヴルでの取材で着想を得た荒木は、物語のイメージを伝えるイラストと、作品の冒頭部分に先行して着手しました。ネームは翻訳され、プロジェクト責任者のドゥアールやルーヴル美術館館長のアンリ・ロワレットのチェックを受け、最終的なOKが出され、原稿の執筆に入りました。当初は60ページ程度の予定でしたが、デビュー前の露伴のエピソードなどを追加した結果、123ページという大規模な作品になりました。

冒頭ページの複製原稿は、2009年にルーヴルで開催された『小さなデッサン展-漫画の世界でルーヴルを-』に展示されました。日本の漫画家の作品がルーヴル美術館に展示されるのは、史上初の出来事です。フランス語版単行本は2010年3月下旬にルーヴル美術館内の書店などで先行販売され、日本では一部書店やネット書店で予約受付が開始されましたが、予約が殺到し一時中止になるほどの反響がありました。日本語版は、モノクロで『ウルトラジャンプ』に3号に渡って掲載され、その後、フルカラーの単行本が発売されました。

あらすじ

漫画家の岸辺露伴は、読者に「この世で最も『黒い色』という色を見たことがあるだろうか？」と問いかけます。物語は、10年前の露伴が17歳だった頃に遡ります。漫画家デビューを目指していた露伴は、祖母の経営するアパートに滞在し、そこで入居者の女性・藤倉奈々瀬から、この世で最も黒く、邪悪な絵の存在を聞かされます。その絵はかつて奈々瀬の地元の地主が所有しており、現在はルーヴル美術館にあるというのです。

10年後、27歳になった露伴は、億泰らとの会話をきっかけに絵と奈々瀬のことを思い出し、好奇心と青春の慕情に駆られ、ルーヴル美術館を訪れます。

登場人物

登場人物の一部は、『ジョジョの奇妙な冒険』Part4『ダイヤモンドは砕けない』と共通していますが、設定が異なる部分もあります。また、ルーヴル美術館での取材メンバー構成が、劇中の探索メンバー構成と一致しています。

岸辺 露伴：人気漫画家。27歳。17歳の時に出会った奈々瀬から聞いた「黒い絵」の謎を追う。
藤倉 奈々瀬：露伴の祖母のアパートに入居していた女性。21歳。露伴に「黒い絵」の存在を教え、その後失踪する。
露伴の祖母：かつて旅館を経営していた。物語の中で、「黒い絵」の力によって姿を現す。
山村 仁左右衛門：「黒い絵」の作者。処刑された男の怨念が絵に宿っている。
東方 仗助、広瀬 康一、虹村 億泰:露伴の友人たち。彼らとの会話が、露伴が「黒い絵」を思い出すきっかけとなる。
野口：ルーヴル美術館の職員で、通訳担当。調査中に亡くなった息子の姿を見てしまい、溺死する。
ゴーシェ:ルーヴル美術館の東洋美術学部門の責任者。調査中に、突如車に轢かれたような傷を負い、死亡する。
消防士:ルーヴル美術館に常駐する警備担当の消防士。調査中に、それぞれ別の原因で死亡する。

用語

月下（げっか）：山村仁左右衛門が描いたとされる「黒い絵」。近付いた者に、その人物の先祖の罪を用いて攻撃する。
Z-13倉庫:「黒い絵」が所蔵されている倉庫。ルーヴル美術館の地下に存在する、老朽化が進んだ倉庫。

書誌情報

荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』集英社〈UJ愛蔵版〉、2011年5月31日発行、ISBN 978-4-08-782379-0
荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』集英社〈ジャンプ コミックス〉、2023年4月9日発行、ISBN 978-4-08-883524-2
* 『Rohan au Louvre』（フランス語版）ISBN 978-2-75480-362-5

実写映画

2023年5月26日に公開された実写映画は、NHKで放送されたテレビドラマ『岸辺露伴は動かない』のキャスト・スタッフが続投する形で制作されました。

この作品は、漫画、映画ともに、独特の世界観と美しい色彩、そしてサスペンス要素の強いストーリーが魅力です。ルーヴル美術館を舞台に繰り広げられる、奇妙で恐ろしい物語をぜひ体験してみてください。

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