岸野牧夫

岸野 牧夫

大正から昭和時代にかけて政治家として活躍した岸野 牧夫（きしの まきお）は、1882年（明治15年）1月1日にこの世に生を受け、1962年（昭和37年）4月21日にその生涯を終えました。徳島県を主な舞台として、地方政治から国政に至るまで、様々な役職を歴任しました。

彼の出生地は徳島県三好郡芝生村（現在の三好市）です。地元の名士であった岸野藤三郎氏の長男として育ちました。学業を修めた後、兵役に就くこととなります。一年志願兵制度を利用して陸軍に入隊し、最終的には中尉の階級まで昇進しました。軍務を終えて郷里に戻った後も、地域の軍事関係組織である帝国在郷軍人会の三好郡聯合分会長を務めるなど、国防への関心を持ち続けました。

地方政治の道に進んだ岸野牧夫は、まず三好郡の郡会議員を務めました。そして、1923年（大正12年）に徳島県会議員選挙で当選を果たします。以来24年もの長きにわたり県議会の場で活動しました。この間に、県議会の運営に関わる要職を歴任しています。具体的には、議事運営の中心となる参事会員、そして議会を代表する副議長を務めました。さらに、1937年（昭和12年）には遂に徳島県会の議長に就任し、県政の重要な意思決定に関わる立場となりました。また、戦時中の体制においては、大政翼賛会の徳島県支部の顧問を務めるなど、当時の政治状況とも関わりを持っていました。

第二次世界大戦後、日本の政治体制が大きく変わる中で、岸野牧夫は国政への道を歩みます。1947年（昭和22年）4月に行われた、戦後初めての参議院議員通常選挙に徳島県選挙区から出馬し、当選を果たしました。これは補欠選挙としての当選であり、任期は3年とされていました。参議院では無所属議員による交渉団体である緑風会に所属しました。しかし、当選から間もない同年7月2日、彼は公職追放の対象となり、やむなく参議院議員を辞職することとなりました。これにより、国会議員としての在任期間は非常に短い一期に留まりました。

政治家としての活動の他にも、地域社会や経済分野でも複数の役職を務めています。例えば、戦後の混乱期における経済政策に関わる徳島県物価協議会の議長や、県の林業振興を担う徳島県森林組合の会長などを歴任しました。これらの活動を通じて、彼は徳島県の復興と発展に貢献しようと努めました。

このように、岸野牧夫は青年期に軍歴を積み、その後は四半世紀以上にわたり徳島県の地方政治に深く関与し、県会議長としてその中心的な役割を担いました。戦後には国政の舞台にも立ちましたが、時代の波に翻弄され、短期間での離脱を余儀なくされました。しかし、地方における長年の実績は、大正・昭和期の徳島県政史において重要な足跡を残した人物として記憶されるでしょう。彼の多岐にわたる活動は、激動の時代を生きた一地方政治家の軌跡を示しています。

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