峯岡牧

峯岡牧（みねおかまき）とは

峯岡牧は、江戸時代に江戸幕府によって安房国（現在の千葉県南部）に置かれた広大な牧です。長狭郡、朝夷郡、平郡の三郡にまたがり、嶺岡山地一帯、約1760町にも及ぶ広大な敷地を有していました。現在の千葉県鴨川市と南房総市の一部にあたります。

歴史

峯岡牧の歴史は古く、戦国時代には里見氏が馬の放牧を行っていたとされています。江戸時代に入り、館山藩が改易されると、幕府がこの地を引き継ぎ、峯岡厩を設置して馬の育成を行いました。里見氏の家臣であった石井重家が、幕府に馬方として召し抱えられ、峯岡厩の管理にあたったとされています。

しかし、徳川綱吉の時代になると、生類憐れみの令の影響で馬の利用が減少し、江戸から遠く離れていた峯岡牧は次第に衰退していきました。元禄16年（1703年）の元禄大地震では壊滅的な被害を受けますが、その直前の元禄10年（1697年）に久しぶりに捕馬が行われたことをきっかけに、牧の再興の動きが起こります。

享保6年（1721年）には、幕府が峯岡牧の再興を決定し、小金牧の厩預であった綿貫夏右衛門による視察が行われました。翌年には、馬乗斎藤義盛と小普請久保田武兵衛が現地に派遣され、牧士の任命など、具体的な措置が講じられました。義盛の養子である斎藤盛安が峯岡牧の責任者となり、厩預の地位を引き継ぎました。享保12年（1727年）には、峯岡牧は西一牧、西二牧、東上牧、東下牧、柱木牧の五つに区分され、「峯岡五牧」と呼ばれるようになりました。ただし、柱木牧はこれ以前から峯岡牧とは独立した牧であった可能性も指摘されています。

寛政5年（1793年）には、小金牧、佐倉牧とともに、峯岡牧の支配が小納戸頭取の支配下に移され、斎藤氏は更迭されました。当時の小納戸頭取であった岩本正倫は、将軍徳川家斉の生母の異母弟であり、将軍からの信任が厚かったことが背景にあるとされています。岩本は、峯岡牧の牛から採れた牛乳を原料に、白牛酪という乳製品を製造・販売していました。

明治維新後、峯岡牧は新政府の嶺岡牧場として引き継がれました。1963年には、嶺岡地域が「日本酪農発祥の地」として千葉県の史跡に指定されています。現在でも酪農が営まれており、牛乳を使った郷土料理「チッコ豆腐」や「チッコカタメターノ」が作られています。

峯岡五牧

峯岡牧は、最盛期には以下の五つの牧に区分されていました。

西一牧: 平郡山田村、中村、荒川村、吉井村（現・南房総市）、長狭郡金束村（現・鴨川市）
西二牧: 長狭郡北風原村、平塚村、細野村、大川面村、吉保仲村、宮山村、古畑村、奈良林村、佐野村、釜沼村、大幡村、寺門村、横尾村、松尾寺村（現・鴨川市）
東上牧: 長狭郡南小町村、上小原村、下小原村、川代村、上野村、東野尻村、西野尻村、成川村、北小町村、押切村、坂東村、大田学村、池田村、京田村、竹平村、下打墨村、大里村、八色村、花房村（現・鴨川市）
東下牧: 長狭郡貝渚村、波太村、宮野下村、二子村、中居村、上打墨村、中打墨村、滑谷村、和泉村、横渚村、代野村、西山村、星ヶ畑村（現・鴨川市）
* 柱木牧: 朝夷郡五十蔵村、磑森村、布野村、黒岩村、上三原村、西小戸村、珠師ヶ谷村、石堂村、石堂原村、川谷村、宮下村、御子神村、大井村（現・南房総市）

これらの村々が、それぞれの牧を構成していました。ただし、一つの村の中でも、一部が別の牧に属しているケースもありました。

まとめ

峯岡牧は、江戸時代に幕府によって設置された広大な牧で、馬の育成や酪農の歴史において重要な役割を果たしました。その広大な敷地は、現在の千葉県南部に広がり、地域文化や食生活にも大きな影響を与えています。また、日本の酪農発祥の地としても知られており、その歴史的価値は非常に高いと言えるでしょう。

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