嶺北等処行中書省

嶺北等処行中書省とは

嶺北等処行中書省（れいほくとうしょ-こうちゅうしょしょう）は、大元ウルスがモンゴル高原に設置した行中書省の一つです。初期にはカラコルム（和林）を中心としていたため、和林等処行中書省と呼ばれていましたが、後に嶺北等処行中書省と改称されました。モンゴル語では「コルム・シン」と呼ばれました。

地理的範囲

嶺北等処行中書省は、現在のモンゴル国を中心として、フルンボイル地方、イルティシュ川流域、シベリア南部一帯を管轄していました。広大な地域を統治下に置いていたことがわかります。

歴史的変遷

チンギス・カンの建国以来、モンゴル高原はモンゴル帝国の中心地でした。しかし、第5代カアンであるクビライは、大都（現在の北京）と上都（現在の内モンゴル自治区）を新たな首都圏とし、カラコルムには宣慰司都元帥府が設置されました。その後、都元帥府はアルタイ山脈方面に移され、カラコルムには和林宣慰司が残されました。

至元26年（1289年）に宣慰使ケベクらが反乱に加担した事件を受け、至元27年（1290年）に和林等処都元帥府が新たに設置されました。大徳11年（1307年）には、クルク・カアン（武宗カイシャン）の即位に伴い、和林等処行中書省が初めて設置されました。同時に、クルク・カアンの即位に貢献した淇陽王オチチェルが右丞相、ハルガスン・ダルハンが左丞相に任命され、和林宣慰司都元帥府は廃止され、新たに和林総管府が設けられました。至大2年（1309年）には名称が和林等処行尚書省に変更されましたが、至大4年（1311年）には再び和林等処行中書省に戻されました。

クルク・カアンの死後、ブヤント・カアン（仁宗アユルバルワダ）が即位すると、皇慶元年（1312年）に和林等処行中書省は嶺北等処行中書省と改称され、和林路総管府も和寧路総管府と改められました。

嶺北行枢密院

嶺北には行政を司る中書省の出先機関である嶺北等処行中書省が設置されたのと同様に、軍事を司る枢密院も嶺北行枢密院を設置していました。天暦2年（1329年）に設置された嶺北行枢密院には、知院1名、同知2名、副枢1名、僉院2名、同僉1名、院判2名、経歴1名、都事2名、ビチクチ4名、掾史2名、怯里馬赤1、知印1名、宣使4名が所属していました。また、至正13年（1353年）にはジャルグチが6名に増員され、鎮撫司、管勾などが設置されました。

碑文

嶺北行省に関する史料は非常に少なく、その実態は不明な点が多いですが、現モンゴル国には嶺北行省によって設置された碑文がいくつか現存しており、嶺北行省の機構を知る上で貴重な史料となっています。主な碑文としては以下のようなものが挙げられます。

勅建興元閣碑
宣威軍碑
釈迦院碑

行政区画

嶺北等処行中書省の主な行政区画は以下の通りです。

カラコルム（和寧路）
チンカイ・バルガスン（称海宣慰司）
益蘭州
ケムケムジュート（謙謙州）

まとめ

嶺北等処行中書省は、大元ウルスがモンゴル高原に設置した重要な行政機関であり、広大な地域を統治していました。その設置、変遷、そして関連する機関を通じて、当時の大元ウルスによる中央アジア支配の一端を垣間見ることができます。史料が少ないながらも、現存する碑文からその実態を伺い知ることができます。

参考文献

『元史』（中華書局）
『中国歴史地図集』（中国地図出版社 1997年）
周振鶴『中国行政区画通史 元代巻』（復旦大学出版社 2009年）

関連項目

元朝の行政区分
行中書省

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