川勝義雄

川勝義雄：魏晋南北朝史研究における巨星とその波乱の生涯

川勝義雄（1922-1984）は、20世紀後半の日本における東洋史研究、とりわけ中国六朝期の研究に多大なる貢献を果たした著名な学者です。京都大学人文科学研究所教授として、独自の視点と深い洞察に基づいた研究を展開し、後世に大きな影響を与えました。

京都の陶磁器窯元から東洋史の第一線へ

川勝は、伝統的な京焼の窯元である粟田口焼の家系に生まれました。名門の家に育ちながらも、学問への道を歩み、京都府立第一中学（現・京都府立洛北高等学校・附属中学校）、第三高等学校を経て、京都帝国大学文学部を卒業します。その後、京都大学人文科学研究所に勤務。司書系の助手から研究系の助手へとキャリアを積み重ね、フランスへの留学を経て、ヨーロッパの東洋学を深く学びました。特に、フランスの東洋学者アンリ・マスペロの著作の翻訳を通して、西洋の東洋史研究の動向を日本に紹介する役割も担いました。

「豪族共同体論」と激しい学問論争

川勝は、内藤湖南や宮崎市定らに始まる「京都学派」の重要な一員でした。魏晋南北朝時代を中世と捉える京都学派の立場を受け継ぎつつ、独自の研究を展開しました。中でも、中国の貴族制に関する研究は、彼の主要な業績の一つです。谷川道雄氏と共に提唱した「豪族共同体論」は、当時の中国社会の構造理解に新たな視点を提示し、大きな議論を巻き起こしました。

特に、矢野主税氏や越智重明氏らとの間では、激しい論争が展開されました。川勝と矢野氏の論争は特に有名ですが、両者の論理が先行し、史料の解釈に偏りが見られるなど、実証的な側面からは問題点も指摘されています。論争は、時代区分論争にとどまらず、個々の史実の解釈にも及び、決着を見ることなく、川勝の逝去によって幕を閉じました。五井直弘氏との門生故吏論争も、彼の研究人生における重要な出来事の一つと言えるでしょう。

緻密な研究と分かりやすい解説

川勝の研究の特徴は、緻密な史料分析に基づいた上で、分かりやすい解説を心がけていた点にあります。専門家だけでなく、一般読者にも理解しやすいように、専門用語を避け、平易な言葉で自身の考えを説明することに努めました。この姿勢は、彼の著作が多くの読者に支持された要因の一つと言えるでしょう。

主要著作

川勝義雄の著作は、今日でも多くの研究者や学生によって参考にされており、その学問的貢献は計り知れません。代表的な著作として、『中国の歴史 3 魏晋南北朝』『魏晋南北朝』『六朝貴族制社会の研究』『中国人の歴史意識』などがあります。また、アンリ・マスペロの『道教』の翻訳も、日本の道教研究に大きな影響を与えました。

親族とその後

哲学者として名高い下村寅太郎氏は、川勝義雄の親族にあたります。学問一家に生まれた川勝は、その才能と努力によって、東洋史研究の第一線で活躍しました。1984年に逝去しましたが、彼の残した研究業績は、現在も日本の東洋史研究に大きな影響を与え続けています。川勝義雄の生涯と研究は、学問への飽くなき探究心と、学問的論争の激しさ、そしてその中で生み出された貴重な知見を後世に伝える重要な遺産となっています。

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