川口屋正蔵

川口屋正蔵（生没年不詳）は、江戸時代に江戸で活躍した地本問屋です。正栄堂、川正という号も使用しており、川口氏を名乗っていました。

活動期間と拠点

川口屋正蔵は、文政年間から嘉永年間にかけて活動していました。当初は京橋銀座4丁目で営業を開始し、その後、天保年間には両国広小路左衛門店へ、そして嘉永年間には南飯田町善兵衛店や山城町林蔵店へと拠点を移しています。このように、時代の流れとともに営業場所を変化させていたことがわかります。

主な出版物

川口屋正蔵は、主に歌川広重と歌川国芳の錦絵を出版していました。これらの作品は、当時の人々の生活や文化を反映しており、現代においても高い評価を受けています。特に、以下のような作品が知られています。

• - 歌川広重

- 『（一幽斎描き）東都名所』：横大判の錦絵揃物で、天保2年頃に制作されました。江戸の名所を描いたシリーズで、広重の代表作の一つです。
- 『四季江戸名所』：中短冊判の錦絵揃物で、天保5年頃に制作されました。四季折々の江戸の風景を捉えた美しい作品群です。
- 『花鳥画』：中短冊判の錦絵で、天保年間に制作されました。花鳥の繊細な描写が特徴です。
- 『名所絵』：中短冊判の錦絵で、江戸の名所を描いています。
- 『浪花名所図会』：横大判の錦絵10枚揃で、天保5年（1834年）頃に制作されました。大阪（浪花）の名所を描いたもので、栄川堂版と川口屋正蔵版、または三田屋喜八郎版のいずれかが存在しますが、特定はされていません。

• - 歌川国芳

- 『里すゞめねぐらの仮宿』：大判3枚続の錦絵で、弘化2年から弘化3年にかけて制作されました。物語性のある作品で、国芳の画力が発揮されています。
- 『宮本武蔵と巨鯨』：大判3枚続の錦絵で、嘉永年間に制作されました。迫力のある描写が魅力です。

これらの作品は、当時の人々に愛され、現代においてもその芸術性が高く評価されています。

問屋株の譲渡

嘉永5年（1852年）4月、川口屋正蔵は問屋株を恵比寿屋庄七に譲渡しています。これにより、川口屋正蔵としての活動は終わりを告げ、その後の消息は明らかになっていません。

まとめ

川口屋正蔵は、江戸時代後期に活躍した地本問屋であり、歌川広重や歌川国芳といった著名な浮世絵師の作品を出版しました。その活動期間は文政年間から嘉永年間と長く、江戸の文化発展に大きく貢献しました。作品の精巧さや芸術性の高さから、現代においてもその功績は高く評価されています。

参考資料

• - 日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第3巻 大修館書店、1982年 ※137頁
• - 吉田漱 『浮世絵の基礎知識』雄山閣、1987年 ※148頁
• - 小林忠 大久保純一 『浮世絵の鑑賞基礎知識』 至文堂、1994年 ※209頁

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