川越茂

川越茂：激動の時代を生きた外交官

川越茂は、1881年（明治14年）、現在の宮崎県宮崎市で生まれました。父は衆議院議員を務めた川越進氏です。名家の子息として育ち、宮崎県立宮崎中学校、第七高等学校を経て、東京帝国大学法学部を卒業。その後、日本の外交官としての道を歩み始めます。

外務省入省後は、順調にキャリアを積んでいきます。亜細亜局第3課長や吉林総領事を歴任した後、青島、満州国、広東、天津と、要職を歴任しました。これらの赴任地は、当時、日本外交の最前線であり、国際情勢の緊迫感を肌で感じながら職務に当たっていたことが伺えます。

1936年（昭和11年）、川越茂は駐華大使に就任します。日中関係が緊迫する中、この任は極めて重要なものとなりました。同年9月から12月にかけては、南京総領事の須磨弥吉郎と共に、国民政府要人と国交調整のための交渉に臨みました。相手方は、外交部長張群氏、政務次長徐謨氏、亜州司長高宗武氏らです。しかしながら、この重要な交渉は、日本陸軍諜報機関の妨害工作により、残念ながら決裂という結果に終わります。

1937年（昭和12年）7月、日中戦争が勃発します。戦争拡大阻止を目指した船津工作において、川越は訓令を無視して介入。高宗武氏との直接会談を行うなど、独自の外交努力を展開しました。しかし、その活動は、当時の政治状況の中で孤立を深めていったと推測されます。そして、1938年（昭和13年）11月、川越茂は外務省を退官することになります。

第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）5月には、外務省顧問に就任しますが、戦後、GHQ（連合国軍最高司令官総司令部）による公職追放を受けました。公職追放解除後は、神奈川県公安委員を務め、その経験を生かして社会貢献に尽力したと考えられます。

川越茂の生涯は、激動の時代を背景に、日本の外交官として大きな役割を果たした証です。日中関係という複雑な国際情勢の中で、彼は自身の信念に基づき行動しましたが、その行動は必ずしも成功とは限りませんでした。彼の経験と功績は、日本の近代外交史を語る上で重要な要素であり、今後の研究においても深く掘り下げていく価値のある人物と言えるでしょう。

参考文献

秦郁彦編『日本近現代人物履歴事典』東京大学出版会、2002年。

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