巡航戦車 Mk.I

巡航戦車Mk.I（A9）：第二次世界大戦初期のイギリス戦車

巡航戦車Mk.I（A9）は、第二次世界大戦でイギリス軍が使用した戦車です。ヴィッカース・アームストロング社が開発し、125両が生産されました。大戦初期の激戦を経験した、歴史的な車両と言えるでしょう。

開発と生産：中戦車計画からの転換

その起源は、1930年代初頭のイギリス陸軍の中戦車開発計画に遡ります。ヴィッカース中戦車Mk.IIIの後継として企画されたA9は、当初は近接支援車両として3.7インチ榴弾砲を搭載する予定でした。しかし、計画は変更され、より強力な2ポンド（40mm）戦車砲を搭載した主力戦車へと進化します。コストを抑えるため、既存の市販エンジンや、改良型のサスペンションシステムなどを採用することで、軽量かつ安価な戦車の開発を目指しました。

採用されたAEC製のエンジンは、ロンドンの2階建てバスにも使われていたもので、150馬力を発揮しました。車体は地雷対策として船底型の底部構造を持ち、傾斜装甲の箱型砲塔は、ヴィッカース社独自の技術を結集していました。特に、動力旋回装置は世界初で、後のイギリス戦車開発にも大きな影響を与えました。

しかし、A9にはいくつかの問題点も存在しました。ブレーキ、サスペンション、履帯など、いくつかの技術的な課題が開発段階から指摘されていました。これらの問題点は生産開始までに幾らか改善されたものの、完全に解決されたわけではありませんでした。また、車体前部には、追加の機銃塔が搭載されたため、乗員の居住性は悪化しました。

開発責任者であったサー・ジョン・カーデンは、1935年に死去。その後、レスリー・リトルが開発を引き継ぎました。

1936年、イギリス軍は戦車を「巡航戦車」と「歩兵戦車」の2種類に分類する方針を決定しました。この方針に従い、A9は軽装甲で高速性を重視した「巡航戦車」として分類され、巡航戦車Mk.Iと命名されました。しかし、その高速性と機動性は限定的でした。そのため、より本格的な巡航戦車としてA13（後の巡航戦車Mk.III）の開発も進められました。

1937年には、ヴィッカース社とハーランド・アンド・ウルフ社の2社で合計125両が生産されました。その中には、3.7インチ榴弾砲を搭載した近接支援型も含まれていました。

戦歴：フランスと北アフリカでの戦闘

巡航戦車Mk.Iは、フランス派遣軍の第1機甲師団に配備され、1940年のフランス戦線で戦闘に参加しました。ダンケルク撤退まで戦い抜いた後、一部は北アフリカに送られ、第7機甲師団で1941年末まで使用されました。

現存車両

現在、巡航戦車Mk.Iは2両が現存しています。1両はイングランドのボービントン戦車博物館に、もう1両はインドのアフマドナガルにある騎兵戦車博物館に展示されています。

まとめ

巡航戦車Mk.Iは、様々な技術的課題を抱えながらも、第二次世界大戦初期のイギリス軍を支えた重要な戦車です。その設計思想や戦歴は、後のイギリス戦車開発に大きな影響を与えました。また、現存する車両は、この歴史的な戦車の証として、大切に保存されています。

もう一度検索