工学寮

工学寮：日本の近代化を支えた技術者育成機関

工学寮は、明治初期に工部省によって設立された技術者養成機関です。工部省が必要とする技術者を、工学校、修技校、海外留学制度を通じて一元的に育成することを目指しました。

歴史

エドモンド・モレルの構想

鉄道建設の技術責任者であったエドモンド・モレルは、西洋技術の迅速な導入のため、工部省と日本人技術者の養成機関の設置を明治政府に提案しました。これを受け、伊藤博文と山尾庸三は、明治4年8月14日（1871年9月29日）に工部省を発足させました。

技術者養成機関としての一等寮が工学寮であり、初代工学頭は工部少輔の山尾庸三が務めました。モレルの提案に基づき、工学校は小学校（スクール）と大学校（カレッジ）で構成され、モレルはイギリスから教員を招聘する予定でしたが、彼の急逝により頓挫しました。

ヒュー・マセソンへの相談

山尾庸三は、1872年1月、旧知のヒュー・マセソンに教師団選抜の協力を依頼し、快諾を得ました。同年7月、岩倉使節団副使として渡英した工部大輔の伊藤博文が、マセソンに正式な協力を依頼しました。

ウィリアム・ランキン教授とインド工学校

マセソンは友人のルイス・ゴードン教授を通じて、グラスゴー大学のウィリアム・ランキンに教師団派遣を依頼しました。ランキンはすぐにヘンリー・ダイアーを団長とする教師団を選抜し、1873年春に林董が彼らを日本へ引率しました。

ランキン教授は、1860年代末にウィリアム・トムソン教授とともにグラスゴー大学に実践的な技術者養成機関「工学部」を新設しようとしており、ダイアーはその下で技術者教育学を専攻していました。ランキン教授の計画は実現しませんでしたが、ダイアーは師の考えを日本で実現しようとしました。

林董は、1873年にスコットランドで教師団の任用契約手続きを行い、日本までの船旅に同行しました。ダイアーは小学校を別個に開くことをやめ、大学校を基礎課程、専門課程、実地課程（各2年）の3期6年制とし、土木、機械、造家（建築）、電信、化学、冶金、鉱山、造船の6学科とする学則・シラバスを作成しました。教育内容は、王立インド工学校 (Royal Indian Engineering College) と同様に、講義と実習を交互に行うサンドウィッチ方式とし、実地課程のために赤羽工作分局を併設させました。

ヘンリー・ダイアーの構想

1873年9月に学生募集が行われ、11月に開校しました。校舎の建設が間に合わず、葵町の仮校舎で授業が開始されました。

工部学校の学生には、工部省から経費を支給される官費生と、学費を納める私費生がありました。官費生には卒業後7年間官庁で働く奉職義務がありました。

1873年11月入学の学生は仮校舎で授業を受けましたが、翌年には最初の組積造校舎（小学館）が完成しました。1877年には本館が完成し、世界で最も優れた工学教育施設と評価されました。

校舎建築

小学校

初期の工部省は営繕部局を持たず、山尾庸三は測量司のイギリス人技術者に営繕を兼務させました。山尾から建築様式にゴシック様式が指定され、測量師長のコリン・アレクサンダー・マクヴェインは、鉄道寮から技師のヘンリー・ジョイナーを、燈台寮から石工のマークスと大工のアンダーソンを転属させ、小学校校舎（後に博物館に改装）、生徒館（宿舎と学習室）、教師館の建物を設計建設しました。

煉瓦壁には大量の帯鉄が使用され、校舎は1873年末に完成し、日本最初の西洋式学校建築となりました。時計塔はグラスゴーから横浜に到着した際に破損していたため、部品を再発注し1875年に取り付けられました。グラスゴーの建築家キャンベル・ダグラスは、マクヴェインに技術的助言、資材の発送、若手建築家の紹介など、さまざまな支援を提供しました。ダグラスから推薦された若手の建築家がチャールズ・アルフレッド・シャストール・ド・ボアンヴィルで、小学校校舎と生徒館の施工管理を行い、教師館を新しく設計し直しました。

大学校

マクヴェインが1873年4月にイギリスに一時帰国する際、工部省営繕をトーマス・ウォートルスに任せることになり、大学校本館の設計はウォートルスの下で始まりました。しかし、1873年6月にイギリスから教師団が到着すると、設計はボアンヴィルの手に移り、彼はダイアーや物理学教授のウィリアム・エドワード・エアトンらと綿密に相談しながら設計案を固めていきました。

1870年代当時、科学技術教育のための施設設計は世界的に模索状態でしたが、1877年に工部大学校校舎（本館）が完成すると、イギリス人建築家のエドワード・ロビンスは王立協会や王立英国建築家協会の集会で、最も先進的な科学技術教育施設として紹介し、科学技術教育用施設建築の設計手本としました。エアトンは工部大学校設計図一式を持ち帰り、旧知のロビンスとともにロンドン&ギルド工学校 (City and Guilds of London Institute) の校舎設計を始めました。

工学寮の廃止

1877年に工学寮は廃止され、工学校は工作局隷属となり、工作局長の大鳥圭介が校長に就任しました。その後、工部大学校と改名されました。ダイアーを通して、イギリスから優秀な外国人教師が引き続き任用され、多くの授業は英語で行われました。学生のノートや卒業論文も英語で書かれたものが現存しています。

工学寮の校舎は、東京大学との合併・移転後、学習院と東京女学館の校舎として利用されましたが、1923年の関東大震災で倒壊しました。文部省が同地に置かれるのはそれ以降のことです。

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