チャールズ・アルフレッド・シャストール・ド・ボアンヴィル
チャールズ・アルフレッド・シャストール・ド・ボアンヴィル（Charles Alfred Chastel de Boinville、1849年 - 1897年4月25日）は、フランス生まれの英仏二重国籍の建築家であり、明治初期の工部省で建築営繕を担いました。母親がスコットランド人であったため、家庭では英語で話しており、日本から帰国後はイギリスで暮らしていたため、本項では氏名を英語読みで表記します。
ボアンヴィル家は、アンシャン・レジーム期にロレーヌ地方の貴族に列せられ、広大な農場を所有していました。高祖父ジョン・バプティストは、フランス革命でラファイエットと行動を共にし、マリー・アントワネットを護送しましたが、後にイギリスへ亡命しました。イギリスでジョン・コリンズの妹ハリエットと恋に落ち、フランスに残した妻子を捨てて結婚しました。ナポレオンが政権を握るとフランスに戻り、ナポレオン戦争に従軍、ロシア遠征で命を落としました。ジョン・バプティストとハリエットの間には一男一女がおり、長男コリンズはイギリス人女性と結婚し、チャールズとウィリアムをもうけました。長女コーネリアは、母と共にロンドンとパリで生活し、文芸界で名を知られました。1814年頃には、パーシー・シェリーにフランス語やイタリア語を教え、親密な関係を築いていました。
建築家ボアンヴィルの父とその弟ウィリアムは、祖父の領地再興を試みましたが、最終的には諦め、共に聖職者の道を選びました。兄チャールズはメソジスト教会牧師としてフランスで布教活動を行い、多数の教会を新設しました。弟のウィリアムはイギリス国教会牧師になりました。
建築家ボアンヴィルは、父がフランスで布教活動中に生まれました。兄姉弟は、父が教会建設に尽力する姿を見て建築家を志しました。学校に通う傍ら、複数の設計事務所で建築修業を積み、1868年頃にはパリで活動するイギリス人建築家ウィリアム・ヘンリー・ホワイトの事務所に入所しました。当時、ホワイトはノルマンディー地方の城の改修工事を手掛けていました。しかし、1870年に普仏戦争が勃発すると、ホワイトもボアンヴィル家族もイギリスへ戻りました。ボアンヴィルはパリに残り、戦争に従軍し、パリ・コミューンにも参加しましたが、その後、イギリスに帰国しました。
帰国後、父親はイギリス国教会に入り、キングストン・アポン・テムズの教会牧師を務めました。ボアンヴィルは、トーマス・カンスタブルの紹介でグラスゴーの建築家キャンベル・ダグラスの事務所に助手として入りました。カンスタブルとダグラスは、明治政府に勤めるコリン・アレクサンダー・マクヴェインと親戚関係にあり、1872年にボアンヴィルに工部省建築家のポストを紹介しました。ダグラス事務所にいたのは1年半程度でしたが、そこでエア出身のアグネス・コーワンと出会い、婚約しました。
来日前に、ある程度の設計資料は携えていましたが、工部大学校や皇居の設計では、師であるキャンベル・ダグラスやウィリアム・ヘンリー・ホワイトから助言を得ていたと思われます。1872年12月に来日すると、測量司所属となり、マクヴェインの後任として工学寮工学校校舎（小学館、生徒館、教師館）の施工監理を担当しました。翌年には、これらの建物を完成させ、教師団と綿密に議論しながら、専門教育のための本館建設に着手しました。工部大学校本館は、イギリス人建築家エドワード・ロビンスによって、イギリスの学術雑誌や学会で広く紹介されました。ロビンスは、技術教育のための施設建築設計を研究しており、工部大学校本館を最先端の事例として高く評価しました。
その他、紙幣寮、外務省、皇居、富岡製糸場、芝聖アンデレ教会初代聖堂などの建築にも携わりました。
1874年3月、マクヴェインが一時帰国から戻る際、グラスゴーからボアンヴィルの婚約者アグネス・コーワンとヘンリー・ダイアーの婚約者を同伴してきました。同年6月、公使ハリー・パークスらが出席し、イギリス領事館でヘンリー・ダイアーとボアンヴィルの結婚式が執り行われました。クララ・ホイットニーの日記にも、ボアンヴィル夫妻の名前がたびたび登場し、社交的な人物であったことが伺えます。
帰国後、王立英国建築家協会準会員となりました。推薦人はキャンベル・ダグラスとウィリアム・ヘンリー・ホワイトでした。ロンドンでは、ロビンス＆ボアンヴィル兄弟事務所を開設し、バタシー・ポリテクニックの設計競技で優秀案に選出されました。その後、ボアンヴィル＆ウィブリン事務所や、故郷のエアでボアンヴィル＆モリス事務所を開設しました。
1886年には、英国工務局に職を得て、在外英国外交施設建築の営繕を担当しました。1891年には、インド省建築家となり、インド省所轄の建築営繕を任されました。マシュー・ワイアットが設計したインド省庁舎の改装を手がけました。インド省では、20世紀にかけて大規模な建築プロジェクトを予定しており、もし1897年にボアンヴィルが肺炎で亡くなっていなければ、コルカタのヴィクトリア・メモリアルなどの設計に関わっていた可能性がありました。
長男チャールズは、祖父と同じように英国国教会の高位聖職者となりました。
1. Obituary of Charles Alfred Chastel de Boinville in the Transaction of Royal Institute of British Architects, 1896.
2. Thomas Constable, Memoirs of Rev. Charles Alfred Chastel de Boinville, 1877.
3. Obituary of Pastor Charles Alfred Chastel de Boinville by Alexander Maclead Symington, Author of "The Last First." The Christian Monthly and Family Treasury for 1881.
4. 泉田英雄、建築家ボアンヴィルの家系と業績について、建築史学、2008年.
ボアンヴィル家の歴史
ボアンヴィル家は、アンシャン・レジーム期にロレーヌ地方の貴族に列せられ、広大な農場を所有していました。高祖父ジョン・バプティストは、フランス革命でラファイエットと行動を共にし、マリー・アントワネットを護送しましたが、後にイギリスへ亡命しました。イギリスでジョン・コリンズの妹ハリエットと恋に落ち、フランスに残した妻子を捨てて結婚しました。ナポレオンが政権を握るとフランスに戻り、ナポレオン戦争に従軍、ロシア遠征で命を落としました。ジョン・バプティストとハリエットの間には一男一女がおり、長男コリンズはイギリス人女性と結婚し、チャールズとウィリアムをもうけました。長女コーネリアは、母と共にロンドンとパリで生活し、文芸界で名を知られました。1814年頃には、パーシー・シェリーにフランス語やイタリア語を教え、親密な関係を築いていました。
建築家ボアンヴィルの父とその弟ウィリアムは、祖父の領地再興を試みましたが、最終的には諦め、共に聖職者の道を選びました。兄チャールズはメソジスト教会牧師としてフランスで布教活動を行い、多数の教会を新設しました。弟のウィリアムはイギリス国教会牧師になりました。
建築家としての修業
建築家ボアンヴィルは、父がフランスで布教活動中に生まれました。兄姉弟は、父が教会建設に尽力する姿を見て建築家を志しました。学校に通う傍ら、複数の設計事務所で建築修業を積み、1868年頃にはパリで活動するイギリス人建築家ウィリアム・ヘンリー・ホワイトの事務所に入所しました。当時、ホワイトはノルマンディー地方の城の改修工事を手掛けていました。しかし、1870年に普仏戦争が勃発すると、ホワイトもボアンヴィル家族もイギリスへ戻りました。ボアンヴィルはパリに残り、戦争に従軍し、パリ・コミューンにも参加しましたが、その後、イギリスに帰国しました。
帰国後、父親はイギリス国教会に入り、キングストン・アポン・テムズの教会牧師を務めました。ボアンヴィルは、トーマス・カンスタブルの紹介でグラスゴーの建築家キャンベル・ダグラスの事務所に助手として入りました。カンスタブルとダグラスは、明治政府に勤めるコリン・アレクサンダー・マクヴェインと親戚関係にあり、1872年にボアンヴィルに工部省建築家のポストを紹介しました。ダグラス事務所にいたのは1年半程度でしたが、そこでエア出身のアグネス・コーワンと出会い、婚約しました。
工部省での活躍
来日前に、ある程度の設計資料は携えていましたが、工部大学校や皇居の設計では、師であるキャンベル・ダグラスやウィリアム・ヘンリー・ホワイトから助言を得ていたと思われます。1872年12月に来日すると、測量司所属となり、マクヴェインの後任として工学寮工学校校舎（小学館、生徒館、教師館）の施工監理を担当しました。翌年には、これらの建物を完成させ、教師団と綿密に議論しながら、専門教育のための本館建設に着手しました。工部大学校本館は、イギリス人建築家エドワード・ロビンスによって、イギリスの学術雑誌や学会で広く紹介されました。ロビンスは、技術教育のための施設建築設計を研究しており、工部大学校本館を最先端の事例として高く評価しました。
その他、紙幣寮、外務省、皇居、富岡製糸場、芝聖アンデレ教会初代聖堂などの建築にも携わりました。
東京での生活
1874年3月、マクヴェインが一時帰国から戻る際、グラスゴーからボアンヴィルの婚約者アグネス・コーワンとヘンリー・ダイアーの婚約者を同伴してきました。同年6月、公使ハリー・パークスらが出席し、イギリス領事館でヘンリー・ダイアーとボアンヴィルの結婚式が執り行われました。クララ・ホイットニーの日記にも、ボアンヴィル夫妻の名前がたびたび登場し、社交的な人物であったことが伺えます。
イギリス帰国後
帰国後、王立英国建築家協会準会員となりました。推薦人はキャンベル・ダグラスとウィリアム・ヘンリー・ホワイトでした。ロンドンでは、ロビンス＆ボアンヴィル兄弟事務所を開設し、バタシー・ポリテクニックの設計競技で優秀案に選出されました。その後、ボアンヴィル＆ウィブリン事務所や、故郷のエアでボアンヴィル＆モリス事務所を開設しました。
1886年には、英国工務局に職を得て、在外英国外交施設建築の営繕を担当しました。1891年には、インド省建築家となり、インド省所轄の建築営繕を任されました。マシュー・ワイアットが設計したインド省庁舎の改装を手がけました。インド省では、20世紀にかけて大規模な建築プロジェクトを予定しており、もし1897年にボアンヴィルが肺炎で亡くなっていなければ、コルカタのヴィクトリア・メモリアルなどの設計に関わっていた可能性がありました。
長男チャールズは、祖父と同じように英国国教会の高位聖職者となりました。
出典
1. Obituary of Charles Alfred Chastel de Boinville in the Transaction of Royal Institute of British Architects, 1896.
2. Thomas Constable, Memoirs of Rev. Charles Alfred Chastel de Boinville, 1877.
3. Obituary of Pastor Charles Alfred Chastel de Boinville by Alexander Maclead Symington, Author of "The Last First." The Christian Monthly and Family Treasury for 1881.
4. 泉田英雄、建築家ボアンヴィルの家系と業績について、建築史学、2008年.
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