左乙女豊秋

左乙女豊秋（さおとめ とよあき）は、1855年（安政2年）に生まれ、没年は明らかになっていない明治期の教育者、聖職者です。

彼のキャリアは、立教大学の源流の一つである大阪の英和学舎から始まりました。ここでは、著名な宣教師であるテオドシウス・ティングに師事し、学びを深めました。卒業後、左乙女は母校である英和学舎で教鞭を執ります。当時の教員陣には、ティングをはじめ、アーサー・ラザフォード・モリスや聖バルナバ病院創設者のヘンリー・ラニングといった宣教師に加え、英文学の第一人者として知られた清水泰次郎、そして洋行帰りとして注目を集めた山中幸平などが名を連ねており、彼らと共に英和学舎の英語教育水準を非常に高いものに引き上げる上で重要な役割を果たしました。

教育活動の傍ら、聖職者としての歩みも進めました。1884年（明治17年）には、大阪聖パウロ教会の牧師に就任しています。また、この時期には大阪の泰西学館でも教鞭を執っていたことが分かっています。

明治20年代に入ると、彼のキャリアは東京へと広がります。1890年（明治23年）、それまでの立教大学校を改編し、新たな学制のもとに設立された立教学校（5年制）に招かれ、その運営を統括する主監の職に就任しました。そして、1896年（明治29年）4月には、立教学校に新設された立教中学校の初代校長に任命され、1899年（明治32年）7月までその重責を担いました。立教中学校の校長を退任した後、その後任は元田作之進が務めています。

立教中学校長在任中の1897年（明治30年）10月には、短期間ながら立教専修学校の校長を兼務しました。また、同じ年の10月には東京英語専修学校の校長にも就任し、中学校長と合わせて三つの要職を兼ねる多忙な時期を過ごしました。

立教学院での勤務を終えた左乙女は、地方の中等教育振興に尽力します。1899年（明治32年）4月には、中学校令の改定に伴い改称された札幌中学校（現在の北海道札幌南高等学校）に、矢島錦蔵の後任として初代校長として赴任しました。北の大地での校長職を終えた後、1900年（明治33年）頃には、奈良英和学校の後身である私立奈良尋常中学校の校長に就任します。しかし、この学校は米国聖公会ミッションの意向により、翌1901年（明治34年）3月をもって廃校となりました。

奈良での活動の終了後、左乙女はさらに西へ移ります。1902年（明治35年）には、和歌山県立田辺中学校（現在の和歌山県立田辺中学校・高等学校）の校長を務めました。このように、彼は明治期における重要な教育機関を各地で率い、教育者としての足跡を広く残しました。

著作としては、1890年（明治23年）に徳富猪一郎らと共著で『公會月報【創刊号】』を大阪の公會月報社から出版しています。また、1896年（明治29年）10月には、自身の訳書である『基督教祷式 : 附・詩篇抜萃』を宇宙神教出版所より刊行しました。

左乙女豊秋の生涯は、草創期の日本の近代教育、特にキリスト教系学校における教育の発展と深く関わっており、多くの学校で指導的役割を果たした人物として記憶されています。

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