元田作之進

元田 作之進

元田作之進は、文久2年（1862年）2月22日に筑後国久留米藩の藩士、それも郡奉行という重職を務めた家の六男としてこの世に生を受けた。少年時代から学問に励み、1877年（明治10年）には久留米師範学校の最初の卒業生の一人となる。卒業後は小学校や中学校で教壇に立ち、教育者としての道を歩み始めた。

キリスト教への入信と海外での学び

1881年（明治14年）、彼は大阪・川口にあった米国聖公会宣教師テオドシウス・ティングが開設した英和学舎（後の立教大学）にて学ぶ機会を得る。翌1882年（明治15年）には洗礼を受け、キリスト教の信仰に入る。同年、英和学舎で共に教鞭をとっていた河島敬蔵が日本で初めてシェイクスピア劇の翻訳を手がけた際に、彼はその筆記者として重要な役割を担った。この翻訳は『欧州戯曲ジュリアスシーザルの劇』として、翌1883年（明治16年）2月から当時の有力新聞に連載された。

同じ1883年、英和学舎の塾生たちの投票によって塾長に選ばれるという、異例の信任を得る。この頃、彼は海外への留学を強く志すようになり、一時的に故郷である筑後へ帰郷し、福岡県小郡小学校の校長を務めた。1885年（明治18年）春、再び大阪へ赴き、ティングに留学の意思を改めて伝え、翌1886年（明治19年）7月、ティングと共にアメリカ合衆国へと渡航した。

アメリカ滞在中、彼はケニオン大学、フィラデルフィア神学院で神学を修める傍ら、ペンシルベニア大学では哲学で博士号を取得。さらにコロンビア大学で社会学を専攻するなど、幅広い分野で深く学び、学識を深めた。

立教大学の礎を築く

1895年（明治28年）9月に帰国した元田は、再び教育の現場に戻り、立教専修学校（後の立教大学）の校長に就任した。翌1896年（明治29年）1月には司祭に按手され、聖職者としての活動も開始する。

教育と信仰の融合を目指し、1897年（明治30年）には信仰心の篤い学生たちを集めて「立教学校ミッション」を組織した。翌年3月には、その活動を広めるための機関紙『築地の園』を創刊し、キリスト教に基づく教育理念の普及に努めた。立教中学の校長を経て、1907年（明治40年）には立教大学の初代学長に就任し、近代的な大学としての発展に力を注いだ。また、聖公会の聖職者を育成する東京三一神学校（現在の聖公会神学院）でも教授として教鞭をとった。

彼の教育活動は立教大学内に留まらなかった。1900年（明治33年）に津田梅子が設立した女子英学塾（現在の津田塾大学）の創設と運営においては、新渡戸稲造や上野栄三郎らと共に協力し、女子教育の発展にも貢献した。さらに、1900年から1923年（大正12年）にかけては、拓殖大学や攻玉社でも英語などを教えるなど、多様な教育機関でその能力を発揮した。

彼が学長を務めていた時期、立教大学は池袋への移転を経て、1922年（大正11年）には大学令に基づく大学として正式に認可され、近代日本の高等教育機関として確固たる地位を築いた。

日本聖公会初の日本人主教

1923年（大正12年）は、元田にとって、そして日本聖公会にとっても画期的な年となった。同年4月25日に日本聖公会東京教区の設立が正式に可決され、5月17日に行われた第一回東京教区会において、元田が初代主教に選出されたのである。そして同年12月7日、東京本郷の聖テモテ教会にて「東京教区監督按手式」が厳かに執り行われ、彼は日本聖公会として初めての日本人監督（主教）に任職された。この按手式は、本来ならば築地の聖三一大聖堂で行われる予定だったが、同年9月1日に関東大震災が発生し大聖堂が壊滅的な被害を受けたため、場所を変更して行われた経緯がある。奇しくも同じ年の12月11日には、大阪教区でも名出保太郎が日本人として初めて主教に就任している。

晩年と残された足跡

主教就任後も、元田は多忙な日々を送った。関東大震災からの復興においては、被災者支援や教会の再建に尽力するなど、社会的な責任も果たした。教育者としては攻玉社で講師を務めるなど、晩年まで後進の指導にあたった。1927年（昭和2年）9月には、多川幾造（平安女学院の元校長）と共に満洲国の大連に渡航し、講演を行うなど、その活動範囲は海を越えていた。

1928年（昭和3年）4月16日、脳出血のため、66年の生涯を閉じた。教育者、聖職者、社会貢献者として多大な功績を残した彼を偲び、翌1929年（昭和4年）5月1日には、立教大学で前学長の功績を称える記念銘板（タブレット）の除幕式が盛大に行われた。

元田の主な著書としては、『日本聖公会史』や『老監督ウィリアムス』などがある。1915年（大正4年）には勲五等瑞宝章を受章している。政治学者の松下正寿は彼の娘婿にあたる。

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