巨核球

巨核球（きょかくきゅう）

巨核球は、骨の中心部にある骨髄に存在する、ヒトの体の中でも特に大きな細胞の一つです。その直径は35マイクロメートルから160マイクロメートルにもなり、骨髄にある造血系の細胞としては最大級です。この細胞の最も重要な役割は、血液を固める際に働く血小板を作り出すことです。

発生と形態

巨核球は、すべての血液細胞のもととなる造血幹細胞から分化して生まれます。造血幹細胞から段階的に変化し、巨核球系前駆細胞、巨核芽球、前巨核球といったいくつかの前段階を経て成熟した巨核球になります。成熟した巨核球の見た目の特徴として、核がいくつかに分かれているように見える「多形核」を持つこと、そして細胞質の中に「アズール顆粒」と呼ばれる青紫色に染まる小さな粒が多数存在することが挙げられます。

通常、巨核球は骨髄内にある細い血管（洞様血管）のすぐ近くに位置していますが、自分自身が骨髄の外に出て、血液中（末梢血）で観察されることはありません。

独特な細胞分裂

多くの細胞が増える際には、核と細胞質がともに分裂して二つの新しい細胞ができます。しかし、巨核球は少し特殊です。巨核球になる前の段階では通常の細胞分裂も行いますが、巨核芽球の段階からは「核内倍加」という独特な方法で核を増やします。これは、核の中にある遺伝情報（染色体）は複製されて増えるものの、細胞質は分裂せず、一つの細胞の中に複数の核、あるいは染色体セットが多量に蓄積されていく現象です。

通常の体細胞が父母から受け継いだ遺伝情報のセットを合計2セット（2倍体）持つのに対し、巨核球は核内倍加によって、一つの細胞の中に通常の数倍から数十倍（一般的には16セットから32セット、多い場合は128セットにもなることがあります）もの染色体セットを持つようになります。これが巨核球の「高倍数性」と呼ばれる特徴です。また、染色体のセット数と核の数が必ずしも一致しないことも、この細胞の特異性であり、核が分かれているように見える多形核の形成に関わっていると考えられています。

血小板の産出メカニズム

十分に成熟した巨核球は、いよいよ血小板を作り始めます。このとき、巨核球は自身の細胞質を細長く数珠状の突起へと変化させます。この突起は、骨髄内の血管壁にある小さな穴を通り抜けて、血管の中に伸びていきます。血管内で数珠のように連なった突起が、まるでちぎれるかのように一つずつ分離していきます。この分離した細胞質の断片一つ一つが、私たちが血液中で「血小板」として知っているものです。

一つの巨核球からは、数千個もの血小板が効率的に作り出されます。

血小板産出後

細胞質の大部分を血小板として放出した後、巨核球は細胞質をほとんど失った状態、いわゆる「裸核」となります。この残った核は、体内の異物や不要になった細胞を処理する働きを持つマクロファージという細胞によって取り込まれ、分解されていきます。

巨核球の異常と病気

巨核球の数や働きに異常が生じると、血小板の産出にも影響が出ることがあります。

巨核球の減少
再生不良性貧血や一部のタイプの急性白血病では、骨髄での巨核球の生成が阻害され、数が減少することがあります。これに伴い、血液中の血小板の数も減少し、出血しやすくなるなどの症状が現れます。

巨核球の増加
骨髄増殖性疾患と呼ばれる病気群、特に本態性血小板血症では、巨核球が異常に増殖します。数が増えるだけでなく、個々の細胞も大きくなったり、形がいびつになったり（異型）、持つ染色体セット数が増加したりすることが見られます。この場合、作られる血小板の数も異常に増加し、血栓ができやすくなるなどの問題を引き起こすことがあります。

* 急性巨核芽球性白血病
急性骨髄性白血病の一種であるM7型は、急性巨核芽球性白血病と呼ばれます。この病気では、巨核球に成熟する前段階の細胞（巨核芽球様細胞）が、正常に成熟する能力を失ったまま、無制限に増え続けてしまいます。

このように、巨核球は血小板産出という重要な役割を担う一方で、その異常がさまざまな血液疾患と関連しています。

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