市原昌三郎

市原 昌三郎

市原昌三郎（1922-2010）は、日本の著名な法学者であり、特に行政法分野で大きな業績を残しました。一橋大学名誉教授として長年にわたり教鞭を執り、多くの後進を育成する傍ら、国の様々な審議会や委員会の委員を務めるなど、実務面でもその専門知識を社会に還元しました。

経歴と研究活動

市原昌三郎は1922年（大正11年）3月9日、千葉県千葉郡津田沼町（現在の習志野市）に生を受けました。千葉県立千葉中学校（現：千葉県立千葉高等学校）を経て、1940年4月に東京商科大学（現在の一橋大学）の予科に入学。学業途上の1943年からは学徒出陣により東部第64部隊に入隊し、1944年には南方戦線に従軍するという戦時の過酷な経験をしました。1945年にボルネオ島で終戦を迎え、マンガル第8収容所に収容された後、1946年にようやく帰国し、大学に復学しました。

1947年に東京商科大学学部を卒業。卒業論文では「シュタムラーの法哲学」を研究しました。同年から1952年までの5年間は、同大学の特別研究生として、行政法学の大家である田上穣治の薫陶を受けました。

研究者としてのキャリアは1952年に東京商科大学講師としてスタートします。1956年には一橋大学法学部助教授に昇任。行政法研究をさらに深めるため、1957年から1959年にかけて、アレキサンダー・フォン・フンボルト財団の奨学生としてドイツに留学。シュパイアー行政大学院およびハイデルベルク大学で、カール・ヘルマン・ウーレをはじめとする著名な研究者に師事しました。

帰国後、1962年には一橋大学法学部教授となり、行政法分野の中心的な存在として教育・研究活動に邁進します。1969年から1972年までの期間は、法学部長および評議員という要職を務め、大学の運営にも貢献しました。1985年に一橋大学を停年退官し、同大学名誉教授の称号を授与されます。同年からは日本大学法学部教授としても教壇に立ち続けました。この間、埼玉大学や山形大学人文学部などでも非常勤講師として教鞭を執り、多くの学生を指導しました。

公職と社会活動

市原昌三郎は、大学での教育・研究活動だけでなく、その専門知識を活かして社会の幅広い分野で貢献しました。比較憲法学会の顧問を務めたほか、政府や公共機関の様々な委員会で重要な役割を果たしました。

主な役職として、1971年から労働省公共企業体等労働委員会公益委員（1983年からは会長代理）、1972年から1977年までの特許庁弁理士審査会臨時委員、1973年から1982年までの郵政省電波監理審議会委員（1981年から1982年まで会長代理）、1980年からの行政管理庁オンブズマン制度研究会委員、1980年からの建設省公共用地審議会委員、1983年からの郵政省郵政審議会委員などが挙げられます。さらに1985年からは、郵政省郵務局の「二十一世紀に向けての郵便のあり方に関する調査研究会」座長を務め、将来の郵便事業のあり方について提言を行いました。

また、東京第二弁護士会に所属する弁護士としても活動し、理論と実務の橋渡しを行いました。

栄誉と晩年

長年にわたる学術研究および社会への貢献が認められ、1997年には勲二等瑞宝章を受章しました。これは、市原昌三郎の功績がいかに広範かつ重要であったかを示すものです。

2010年1月2日、東京都青梅市の病院にて安らかに逝去しました。享年87歳。その功績に対し、没後、正四位が叙されました。

門下生

市原昌三郎は優れた教育者として、多くの法曹界や学界、実業界において活躍する人材を育てました。主な指導学生には、青山学院大学長の三木義一、中央大学教授で個人情報保護委員会委員長を務めた藤原静雄、一橋大学名誉教授の高橋滋、同じく一橋大学名誉教授の山田洋、明治大学教授の山岸敬子、同じく明治大学教授の今村哲也、千葉大学名誉教授の鈴木庸夫らがいます。また、市原ゼミナール出身者からは、最高裁判所裁判官を務めた山浦善樹や、元労働事務次官・元労働者健康福祉機構理事長の伊藤庄平といった、国の要職に就いた人物も輩出しています。市原昌三郎が日本の行政法学界および実務に与えた影響は、これらの門下生を通じて今なお続いています。

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